55. ゲームの結果
「さあ、最後の3回目のサイコロで勝負が決まります! 追加で賭ける方はどうぞ!」
司会者が叫ぶと、人々は再び賭けに忙しくなった。
最高潮に盛り上がる中、2回目の勝者であるキアンが対魔法陣の中に立った。サイコロが転がる。
〈5と6〉の結果に、〈割らない〉側の人々が一斉に勝利を確信して大いに騒いだ。
アルは親指を立て、キアンを軽く抱きしめた。
「まだ終わってないよ、レオン! 愛を信じる者の力を見せてやるのよ!」
ユニスが真剣な表情でレオンに声をかけた。
アルが不満そうに反論した。
「なんだ、その言い方は? それじゃ、あ俺たちは愛を否定してるみたいじゃねえか?」
ユニスは聞こえないふりをして、レオンの背中を軽く叩いた。
レオンは肩をぐるぐる回しながらストレッチをして、ゆっくりと対魔法陣の中に入った。
すべての視線がレオンに集中した。
ついに、サイコロが投げられた。
目を確認した司会者が、人々の方を向いた。全員が固唾をのんで、彼の口元を見つめた。
「6、6〜!」
司会者は、場内が揺れるほど長く声を引き伸ばして叫んだ。
割る側の席からは歓喜の叫びが響き渡った。ユニスはフローラと手を取り合い、子供のようにぴょんぴょん跳ねて、喜びを分かち合った。
アルは呆れたような表情で2人を見つめていたが、やがて吹き出してしまった。
「まったく、こうもなるもんだな。」
一方、賭けをしていた人々は、賞金の分配に忙しくしていた。そんな中、今回は抗魔法陣を薬品で消し、その場に長いテーブルと椅子が並べられた。割る側が勝利した場合、その場で割る作業まで行うと決められていたからだ。
司会者が、前に出て声を張り上げた。
「今回は共鳴するか、しないかで勝負します! 共鳴すると思う方は赤の旗、共鳴しないと思う方は青の旗に賭けてください!」
再び人々がどっと押し寄せ、賭けをするために大騒ぎとなった。
疾風にとって、この光景はまるで映画のワンシーンのようで、興味深く、心躍るものだった。レオンがここに連れてきてくれたおかげで、この面白い見世物を見逃さずに済んだと思うと、胸が高鳴った。
テーブルの準備が整うと、ユニスは席に座り、自分の道具セットを取り出して丁寧に並べた。そして、固定台の上に〈火の鳥の心臓〉を置くと、あちこちから感嘆の声が漏れた。
「本当に大きいわね!」
「色もすごく綺麗。」
「あれが火の鳥の心臓か。初めて見たよ。」
「私も。」
ユニスは魔道具を目に装着し、測定器で火の鳥の心臓を精密に測って真ん中を決めた。そして、宝石の刃がついた道具を手に取り、落ち着いた手つきで慎重に火の鳥の心臓を半分に割り始めた。
レオンたちはユニスを取り囲み、息を潜めて彼女の動きを食い入るように見つめた。
カァーン〜。
クリスタルの破片がぶつかるような、澄んだ美しい音が響き渡り、綺麗に2つに割れた恋人の心臓の内部から、鮮やかな深紅の光が放たれた。
短い静寂が流れた後、司会者が興奮した声で叫んだ。
「共鳴した〜!〈恋人の心臓〉の誕生です!」
ユニスは込み上げる喜びを抑え、2つの宝石を手に取り、あらかじめ用意しておいた箱に丁寧に収めた。
人々の間から、すぐに買い手の声が上がった。
「キベレ大金貨2300枚で買おう!」
「2500枚!」
「俺は2700だ!」
騒がしい中、キアンが低いが、はっきりとした口調で言った。
「私が買い取ります。キベレ大金貨4000を出しましょう。」
その言葉を聞いたみんなは驚き、互いに顔を見合わせた。一番にアルが軽く頷いて同意し、それに続いてマクスボーンも賛成した。ユニスも目で合図を送り、フローラが最後に頷くのを確認したレオンは、くるりと振り返り、大声で宣言した。
「悪いが、もう買い手は決まっています。」
「もう? いくらで?」
「契約はすでに成立しているので、変更はありません。」
レオンがきっぱりと言い切ると、人々は半ば好奇心、半ば残念そうにざわめいた。
「話はまとまったので、俺たちは部屋へ戻ります。」
レオン一行は宿の主人にそう伝え、部屋へと戻った。マクスボーンは疾風を連れて厩舎へ向かった。
馬小屋へ行ったマクスボーンが戻るのを待ち、キアンが口を開いた。
「今すぐこの金額を用意することはできませんので、キベレに到着次第、お支払いします。師であるクロード・ペラミナス卿の名にかけて、お約束します。」
アルはむしろ好都合だという顔をした。
「そんな大金を俺たちが持ち歩くより、そのほうが安全でいい。換金するにしても、キベレでやるのが得策だろうしな。」
他の仲間もアルと同じ考えだったため、〈恋人の心臓〉が入った箱はその場でキアンに手渡された。アルは改めてキアンを見つめながら言った。
「貴族の出身だとは知っていたが、想像以上の大金持ちのお坊ちゃんだったんだな。」
キアンは気恥ずかしそうに微笑んだ。
「一財産はたいたと思ってください。」
「それにしても、こんなものを持って混沌の地を移動するのは危険じゃないか?」
レオンが心配そうに言うと、フローラが答えた。
「バイアフに、信頼できる運送の手があります。師匠から聞いておりますので、そっちに預けるといいと思います。」
「それなら安心だな。」
「それに関して、キアンと話しておきたいことがあります。少し席を外していただけますか?」
フローラの頼みに応じ、他の仲間は部屋を出て行った。二人きりになると、フローラはキアンに尋ねた。
「誰に届ければいいの?」
「シトマのクロード・ペラミナス卿に。『僕が守るべきお方へ届けてほしい』と伝えれば、すぐに分かるはずだよ。」
「わかったわ。長引けば危険だから、今すぐ行ってくるね。」
フローラはキアンから箱を受け取り、それをアイテム袋にしまって部屋を出た。
外には、いつの間にか3人の騎士が来て、彼女を待っていた。彼らはフローラを見ると、恭しく頭を下げた。
「お迎えに上がりました、ウェイズ様。」
女騎士がそう言って先頭に立った。騎士たちはフローラを中央に挟み、護衛しながら宿を後にした。
*** ***
秘密の部屋でフローラと向かい合ったメレディスは、テーブルの上に置かれた小さな宝石箱をじっと見つめていた。
「殿下が守るべきお方へ届けてほしいとのことでした。」
メレディスは手を伸ばし、箱を開いた。
カァーン〜。
澄んだ音とともに、恋人の心臓は互いに共鳴し、内部から鮮やかな深紅の光を放っていた。
箱を閉じると、メレディスが言った。
「素晴らしいものが出てきたと聞いていたが、本当にその通りだね。」
「私は今回、初めて恋人の心臓を見ました。師匠は以前にご覧になったことがありますか?」
しばらく沈黙していたメレディスが、静かに答えた。
「一度だけ見たことがあるわ。」
「ユニスの言う通り、本当にロマンチックな魔石ですね。愛し合う二人が永遠の誓いを立て、一つずつ分け合うことで、二人の最も美しい瞬間を永遠に思い出させてくれるなんて。」
「そうだな。美しい話だわ。」
メレディスの声には、どこか寂しげな余韻が滲んでいた。
「殿下がこれを贈ろうとしているのは、やはりアデルライド陛下ですよね?」
「他に誰がいると思う?」
フローラは小さく首をかしげた。
「殿下は『自分にそんな幸運はない』と言って、最初は割ることに反対されていました。でも、まさか購入するとは思わなくて、驚きました。」
「幸運を望まなかったのではなく、信じていなかっただけだろう。」
「幸運を信じられないなんて、少し悲しいですね。」
「期待しなければ、がっかりすることもないからね。あなたは幸運を信じていたの?」
「信じていたというより、そうだったらいいなと思って、運に賭けてみたかったという感じでしょうか。魔石が共鳴したのも嬉しいですが、何よりもその過程がすべて楽しかったです。
どうするか意見を出し合い、ゲームの内容を決めて、ルールを考えて。そういう一つ一つのことが。
ゲームのことも同じです。あんなに賑やかで活気あふれる光景は初めて見ました。なんと、殿下まで上着を脱いで、みんなの前でサイコロを投げていたのですよ。」
フローラは話している途中、真剣な表情でサイコロを投げるキアンの姿を思い出し、不意に笑いがこぼれた。
メレディスもつられて笑った。
「殿下も今回の旅で、いろいろな経験をしていらっしゃるね。」
「本当にそうです。シトマにいた頃は、いつも冷たい無表情でしたけど、今では表情もずいぶん豊かになりました。よく笑うようにもなって。もともと暗い人ではなかったのですね。」
フローラは明るい顔で続けた。
「そういえば、アルも殿下と同じように『割るのはやめよう』って言っていましたけど、今では幸運に幸運が重なって、逆に少し怖くなってきたって言ってました。」
「幸運に幸運が重なると、逆に怖くなる、か。なるほど、一理あるわね。」
メレディスは静かに呟いた。
フローラが部屋を後にした後、一人残ったメレディスは、目の前の箱をそっと開いた。
恋人の心臓が共鳴する、澄んだ、そして切ない音色に混じって、微かな囁き声が耳元に蘇る。
『ニスベット、君を愛している。僕とこれを分かち合わないか?』
柔らかな銀髪の下で、切実に震えていた紫色の瞳が、まるで昨日のことのように鮮明に浮かび上がった。
(あの時、彼の想いを受け入れていたら。)
メレディスは悲しい顔で目を閉じた。
(どうして、あの頃の私は、あんなに、なにもかも怖かったのだろう。)




