表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
畜生脱出〜後は異世界冒険  作者: 星を数える
Ⅲ 混沌の地
74/325

55. ゲームの結果

「さあ、最後の3回目のサイコロで勝負が決まります! 追加で賭ける方はどうぞ!」

 司会者が叫ぶと、人々は再び賭けに忙しくなった。


 最高潮に盛り上がる中、2回目の勝者であるキアンが対魔法陣の中に立った。サイコロが転がる。

 〈5と6〉の結果に、〈割らない〉側の人々が一斉に勝利を確信して大いに騒いだ。

 アルは親指を立て、キアンを軽く抱きしめた。


「まだ終わってないよ、レオン! 愛を信じる者の力を見せてやるのよ!」

 ユニスが真剣な表情でレオンに声をかけた。


 アルが不満そうに反論した。

「なんだ、その言い方は? それじゃ、あ俺たちは愛を否定してるみたいじゃねえか?」


 ユニスは聞こえないふりをして、レオンの背中を軽く叩いた。

 レオンは肩をぐるぐる回しながらストレッチをして、ゆっくりと対魔法陣の中に入った。


 すべての視線がレオンに集中した。

 ついに、サイコロが投げられた。


 目を確認した司会者が、人々の方を向いた。全員が固唾をのんで、彼の口元を見つめた。

「6、6〜!」

 司会者は、場内が揺れるほど長く声を引き伸ばして叫んだ。


 割る側の席からは歓喜の叫びが響き渡った。ユニスはフローラと手を取り合い、子供のようにぴょんぴょん跳ねて、喜びを分かち合った。


 アルは呆れたような表情で2人を見つめていたが、やがて吹き出してしまった。

「まったく、こうもなるもんだな。」


 一方、賭けをしていた人々は、賞金の分配に忙しくしていた。そんな中、今回は抗魔法陣を薬品で消し、その場に長いテーブルと椅子が並べられた。割る側が勝利した場合、その場で割る作業まで行うと決められていたからだ。


 司会者が、前に出て声を張り上げた。

「今回は共鳴するか、しないかで勝負します! 共鳴すると思う方は赤の旗、共鳴しないと思う方は青の旗に賭けてください!」

 再び人々がどっと押し寄せ、賭けをするために大騒ぎとなった。


 疾風にとって、この光景はまるで映画のワンシーンのようで、興味深く、心躍るものだった。レオンがここに連れてきてくれたおかげで、この面白い見世物を見逃さずに済んだと思うと、胸が高鳴った。


 テーブルの準備が整うと、ユニスは席に座り、自分の道具セットを取り出して丁寧に並べた。そして、固定台の上に〈火の鳥の心臓〉を置くと、あちこちから感嘆の声が漏れた。


「本当に大きいわね!」

「色もすごく綺麗。」

「あれが火の鳥の心臓か。初めて見たよ。」

「私も。」


 ユニスは魔道具を目に装着し、測定器で火の鳥の心臓を精密に測って真ん中を決めた。そして、宝石の刃がついた道具を手に取り、落ち着いた手つきで慎重に火の鳥の心臓を半分に割り始めた。

 レオンたちはユニスを取り囲み、息を潜めて彼女の動きを食い入るように見つめた。


 カァーン〜。

 クリスタルの破片がぶつかるような、澄んだ美しい音が響き渡り、綺麗に2つに割れた恋人の心臓の内部から、鮮やかな深紅の光が放たれた。


 短い静寂が流れた後、司会者が興奮した声で叫んだ。

「共鳴した〜!〈恋人の心臓〉の誕生です!」


 ユニスは込み上げる喜びを抑え、2つの宝石を手に取り、あらかじめ用意しておいた箱に丁寧に収めた。


 人々の間から、すぐに買い手の声が上がった。

「キベレ大金貨2300枚で買おう!」

「2500枚!」

「俺は2700だ!」


 騒がしい中、キアンが低いが、はっきりとした口調で言った。

「私が買い取ります。キベレ大金貨4000を出しましょう。」


 その言葉を聞いたみんなは驚き、互いに顔を見合わせた。一番にアルが軽く頷いて同意し、それに続いてマクスボーンも賛成した。ユニスも目で合図を送り、フローラが最後に頷くのを確認したレオンは、くるりと振り返り、大声で宣言した。


「悪いが、もう買い手は決まっています。」

「もう? いくらで?」


「契約はすでに成立しているので、変更はありません。」

 レオンがきっぱりと言い切ると、人々は半ば好奇心、半ば残念そうにざわめいた。


「話はまとまったので、俺たちは部屋へ戻ります。」

 レオン一行は宿の主人にそう伝え、部屋へと戻った。マクスボーンは疾風を連れて厩舎へ向かった。



 馬小屋へ行ったマクスボーンが戻るのを待ち、キアンが口を開いた。

「今すぐこの金額を用意することはできませんので、キベレに到着次第、お支払いします。師であるクロード・ペラミナス卿の名にかけて、お約束します。」


 アルはむしろ好都合だという顔をした。

「そんな大金を俺たちが持ち歩くより、そのほうが安全でいい。換金するにしても、キベレでやるのが得策だろうしな。」


 他の仲間もアルと同じ考えだったため、〈恋人の心臓〉が入った箱はその場でキアンに手渡された。アルは改めてキアンを見つめながら言った。

「貴族の出身だとは知っていたが、想像以上の大金持ちのお坊ちゃんだったんだな。」


 キアンは気恥ずかしそうに微笑んだ。

「一財産はたいたと思ってください。」


「それにしても、こんなものを持って混沌の地を移動するのは危険じゃないか?」

 レオンが心配そうに言うと、フローラが答えた。

「バイアフに、信頼できる運送の手があります。師匠から聞いておりますので、そっちに預けるといいと思います。」


「それなら安心だな。」

「それに関して、キアンと話しておきたいことがあります。少し席を外していただけますか?」


 フローラの頼みに応じ、他の仲間は部屋を出て行った。二人きりになると、フローラはキアンに尋ねた。

「誰に届ければいいの?」


「シトマのクロード・ペラミナス卿に。『僕が守るべきお方へ届けてほしい』と伝えれば、すぐに分かるはずだよ。」

「わかったわ。長引けば危険だから、今すぐ行ってくるね。」

 フローラはキアンから箱を受け取り、それをアイテム袋にしまって部屋を出た。


 外には、いつの間にか3人の騎士が来て、彼女を待っていた。彼らはフローラを見ると、恭しく頭を下げた。

「お迎えに上がりました、ウェイズ様。」

 女騎士がそう言って先頭に立った。騎士たちはフローラを中央に挟み、護衛しながら宿を後にした。


 *** ***


 秘密の部屋でフローラと向かい合ったメレディスは、テーブルの上に置かれた小さな宝石箱をじっと見つめていた。

「殿下が守るべきお方へ届けてほしいとのことでした。」


 メレディスは手を伸ばし、箱を開いた。

 カァーン〜。

 澄んだ音とともに、恋人の心臓は互いに共鳴し、内部から鮮やかな深紅の光を放っていた。


 箱を閉じると、メレディスが言った。

「素晴らしいものが出てきたと聞いていたが、本当にその通りだね。」


「私は今回、初めて恋人の心臓を見ました。師匠は以前にご覧になったことがありますか?」

 しばらく沈黙していたメレディスが、静かに答えた。

「一度だけ見たことがあるわ。」


「ユニスの言う通り、本当にロマンチックな魔石ですね。愛し合う二人が永遠の誓いを立て、一つずつ分け合うことで、二人の最も美しい瞬間を永遠に思い出させてくれるなんて。」

「そうだな。美しい話だわ。」

 メレディスの声には、どこか寂しげな余韻が滲んでいた。


「殿下がこれを贈ろうとしているのは、やはりアデルライド陛下ですよね?」

「他に誰がいると思う?」

 フローラは小さく首をかしげた。


「殿下は『自分にそんな幸運はない』と言って、最初は割ることに反対されていました。でも、まさか購入するとは思わなくて、驚きました。」

「幸運を望まなかったのではなく、信じていなかっただけだろう。」


「幸運を信じられないなんて、少し悲しいですね。」

「期待しなければ、がっかりすることもないからね。あなたは幸運を信じていたの?」


「信じていたというより、そうだったらいいなと思って、運に賭けてみたかったという感じでしょうか。魔石が共鳴したのも嬉しいですが、何よりもその過程がすべて楽しかったです。

 どうするか意見を出し合い、ゲームの内容を決めて、ルールを考えて。そういう一つ一つのことが。

 ゲームのことも同じです。あんなに賑やかで活気あふれる光景は初めて見ました。なんと、殿下まで上着を脱いで、みんなの前でサイコロを投げていたのですよ。」

 フローラは話している途中、真剣な表情でサイコロを投げるキアンの姿を思い出し、不意に笑いがこぼれた。


 メレディスもつられて笑った。

「殿下も今回の旅で、いろいろな経験をしていらっしゃるね。」


「本当にそうです。シトマにいた頃は、いつも冷たい無表情でしたけど、今では表情もずいぶん豊かになりました。よく笑うようにもなって。もともと暗い人ではなかったのですね。」

 フローラは明るい顔で続けた。


「そういえば、アルも殿下と同じように『割るのはやめよう』って言っていましたけど、今では幸運に幸運が重なって、逆に少し怖くなってきたって言ってました。」


「幸運に幸運が重なると、逆に怖くなる、か。なるほど、一理あるわね。」

 メレディスは静かに呟いた。


 フローラが部屋を後にした後、一人残ったメレディスは、目の前の箱をそっと開いた。

 恋人の心臓が共鳴する、澄んだ、そして切ない音色に混じって、微かな囁き声が耳元に蘇る。


『ニスベット、君を愛している。僕とこれを分かち合わないか?』

 柔らかな銀髪の下で、切実に震えていた紫色の瞳が、まるで昨日のことのように鮮明に浮かび上がった。


(あの時、彼の想いを受け入れていたら。)

 メレディスは悲しい顔で目を閉じた。

(どうして、あの頃の私は、あんなに、なにもかも怖かったのだろう。)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ