表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
畜生脱出〜後は異世界冒険  作者: 星を数える
Ⅲ 混沌の地
54/325

35. 再びプレティオミへ

 戦いの後始末を終える頃には、すでに夜明けが近づいていた。

 一行は、夜通し見張り役を買って出たユニスを除き、地面に横になるや否や意識を失うように眠りに落ちた。疾風も疲れ果て、地面に倒れ込むようにして眠ってしまった。


 どれほど時間が経ったのか、目を覚ますと、すでに昼過ぎになっていた。レオンやアルたちは寝ぼけ眼で輪になり、朝食兼昼食をとっていた。彼らの顔には、昨夜の激戦の名残が色濃く残っていた。


「皆さん、体の具合はどうですか? 今日中に出発できそうですか?」

 フローラが問いかけると、一同は疲れ切った目をしながら顔を見合わせた。声をかけたフローラ自身も、普段よりやつれた様子は隠せなかった。


 彼女は静かにため息をつき、言った。

「安全を考えれば、ここに長く留まるべきではありませんが。とりあえず、今日明日は休んで様子を見ましょう。」



 結局、一行はその場で2日を過ごした後、最も近い安全な街であるプレティオミへ戻り、休息を取ることに決めた。


 出発の前に、マックスボーンは、デストロの一団から回収した武器や装飾品などを地面に広げた。10人分ともなると、なかなかの量だった。


「そのまま埋めるには、惜しいものばかりだったので、一応集めておきました。使えるものは使うなり、処分するなりした方がいいかと思いまして。」


 フローラは、あまり興味のなさそうな目でざっと見渡した後、リスティーンが持っていた小型の望遠鏡のようなものを手に取った。

「千里眼ですね。これで遠くから私たちを監視していたのでしょう。これは私がいただきます。」


 ユニスは、自分を執拗に苦しめたリスティーンの毒針道具と魔法紋様が刻まれた小さなクロスボウ、それに腕輪型の護符を手に取った。


 男たちは短剣や刀剣の中から、レオンが短剣を一本、アルとキアンが中間の長さの剣を一本ずつ選び、それで終わりにした。残りはマックスボーンに処分を任せることにした。


「大丈夫か、疾風?」

 レオンは疾風の様子を念入りに確認して、心配そうに声をかけた。


 リスティーンの攻撃にさらされ、多くの傷を負ったせいで、疾風の脚や太腿には包帯がびっしり巻かれていた。

「まあ、なんとかなるさ。捻挫や骨折じゃないから平気だよ。」


 現代人だった頃は、指先を少し切っただけでも消毒薬だ、絆創膏だと大騒ぎしていたのに、今では随分とタフになったものだと自分でも思った。とはいえ、痛くても痛いと騒ぐこともできず、甘えられないのは、マックスボーンが押しつけた〈英雄戦士〉というイメージのせいでもあった。


(ただの、そこらにいる戦い慣れた男程度でよかったのに。英雄戦士だなんて、馬鹿げてる。)

 疾風は内心ぼやきつつ、マックスボーンを恨めしそうに睨んだ。


        *** ***


 幸いなことに、プレティオミエに到着するまで何事もなく平穏だった。城門で前回と同じ手続きを経て、城内に入った一行は、以前泊まった宿へ向かった。


 ゆっくり馬を進め、大通りを通っていた一行は、向かいから馬に乗った一団とすれ違った。混沌の地では、馬を持ち込むこと自体が珍しく、自然と視線が向いた。


 長いマントを羽織り、フードを深くかぶった姿の彼らは、一見して騎士団のように見えた。相手の一団もレオンたちを見つめていた。

 特に、その視線は明らかに疾風に向けられていた。


 両者は、まるで示し合わせたかのように、互いを見据えたまま足を止めた。先頭にいる騎士がレオンに軽く会釈し、口を開いた。

「ベインと申します。少しお話をよろしいでしょうか?」


 30代前半から半ばほどに見える男で、フードの下から覗く落ち着いるが鋭さを宿した深い青色の瞳が印象的だった。その眼差しと声だけで、彼がただ者ではないことが感じ取れた。


 レオンはわずかに緊張しながら応じた。

「ヴァルラスです。」


 ベインは、疾風の前で明らかに萎縮し、頭を垂れている自分の馬をちらりと見てから、疾風に視線を移した。

「素晴らしい馬ですね。名前を伺ってもよろしいですか?」


「疾風といいます。」

「疾風。」

 男は疾風をじっと見つめた。


 疾風もまた、この男から感じる侮れないオーラに興味を抱き、視線を合わせた。男の深い青色の瞳が、疾風の黄金色の瞳を真正面から捉えた。


「ヴァルラス卿、初対面で失礼を承知の上でお聞きします。もし可能なら、その疾風を私に譲っていただけませんか?できる限りの最大の報酬をお支払いします。」


 すると、アルが素早く反応した。ローブの肩を覆っていたケープを軽くずらし、エレンシアの紋章を見せながら言った。

「お話の途中で失礼しますが、疾風の持ち主が変わる場合、エレンシアの貴人が最優先の権利を有しております。」


 ベインはわずかに微笑み、再びレオンに向き直った。

「無礼をお許しください。もしもお気持ちが変わることがありましたら、カリトラム王国のヘケナの『紅い野ばらの館』まで、ぜひご連絡ください。」

 そう言い残し、ベインは馬を進め、一行の横を通り過ぎていった。


 ベインを含む五人の騎士、それに魔法使いと司祭が加わった一団だった。全員が馬に乗り、さらにその後ろには荷物を積んだ3頭のラクダと、それぞれに屈強な従者が跨っていた。


 アルは彼らを振り返って、ぼそりと呟いた。

「カリトラムの騎士団か? どいつもこいつも、ただ者じゃなさそうだな。」


 キアンは、険しい目つきでさりげなく彼らを振り返り、フローラは目立たぬようにそっと唇を噛み、視線を落とした。



 城門へ向かっていたベインは、ふと首をかしげ、遠ざかる疾風とレオンの姿を一瞥した。隣にいる騎士が話しかけた。

「確かに見事な馬ですね。もし買うとしたら、とんでもない額になりそうですが。」


「またとない軍馬だ。こういうところで金を惜しんでいては、大儀は果たせない。」

「そこまで気に入られたのですか?」


 ベインは薄く笑い、軽く自分の馬の首筋を叩いた。

「こいつがここまで萎縮するのは、初めて見た。」


 そう言って、ベインはレオンの顔を思い浮かべた。

(どこかで見たことがあるような。)


 妙な既視感を覚えた。だが、相手はどう見ても20歳前後の若者だ。

 さらに、アルが見せたエレンシアの紋章から考えても、エレンシアの騎士であることは間違いないだろう。


 エレンシアは大陸の争いに関与しない中立国を掲げているため、これまでカリトラムと敵対するようなことは一度もなかったはずだ。

(気のせいか。)

 そう思い直し、ベインはプレティオミエの城門をくぐっていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ