表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
畜生脱出〜後は異世界冒険  作者: 星を数える
Ⅲ 混沌の地
51/325

32. 殺すか、殺されるか(4/4)

 疾風とユニスはレオンたちの元へ戻った。仲間の姿が見えると、ユニスはマックスボーンと戦っている巨漢に向かって矢を放った。


 背中に矢を受けた巨漢が振り向く間にも、さらに二本の矢が飛んだ。一本は外れたが、もう一本はザイアの脇腹に突き刺さった。


 この隙を逃さず、マックスボーンが盾で巨漢の顔を殴り、体勢を崩させた。続けざまにメイスを振り下ろし、巨漢の頭部を狙った。キアンは持っていた剣をザイアの心臓に突き立てた。


「リスティーンがやられた。」

 ユニスの姿を見たルインが、落胆した声で呟いた。


「ど、どうしましょう?」

 アンソンが震える声で尋ねた。

 馬に乗ったエルフの弓使いが外周を固めている以上、もう逃げることすらできない状況になっていた。



 デストロは突然剣を収め、レオンとアルに向かって言った。

「双方ともに被害が大きい状況だな。この辺で交渉するのはどうだ? 俺たちを見逃してくれれば、こちらもここで引いてやる。」


 その言葉を聞き、レオンとアルの瞳が揺らいだ。致命傷こそ避けてきたものの、正直なところ、フローラの回復術がなかったら、到底持ちこたえられない相手だった。レオンもその事実を痛感していた。


「なあ、レオン、もうこの辺で。」

 アルが震える声でレオンに呼びかけたが、キアンの冷たい声が遮った。

「ここで見逃してやったら、本当にお前たちが大人しく引き下がるとでも言うのか? 僕は、お前たちのような連中を嫌というほど見てきた。どうせ次はもっと人数を集め、僕たちを襲いに来るつもりだろう。」


 デストロがキアンを見つめた。彼の背後には、剣が突き刺さって倒れているディマセの姿があった。

「かわいい坊やかと思えば、なかなかやるじゃないか。でも今の状況、お前たちの方が押されているように見えるが、それでも続けるつもりか?」


「お前たちが本当に優勢なら、そんな提案すらしなかったはずだ。」

 キアンは氷のように冷えた目でデストロを真っ直ぐに見据え、まるで宣告するように言い放った。

「僕は、今まで僕を狙った相手を生かして帰したことはない。」


 キアンの言葉が終わると、向こう側からフローラの陽気な笑い声が響いた。楽しそうに笑いながら、彼女は手をひらひらと振っていた。

「私は賛成よ!」


 その姿を見たデストロが、歪んだ笑みを浮かべた。

「交渉決裂ってことか? いいだろう。どっちが先に全滅するか、試してみようじゃないか。」


 その言葉を合図に、再び剣が激しくぶつかり合い始めた。デストロとルインはキアンの方へ向かおうとしたが、それをレオンとアルが阻んだ。


「キアン、こいつらは俺たちに任せて、お前はあいつらを相手しろ。」

 レオンはキアンの前に立ち、そう言った。キアンの戦闘スタイルを知るレオンにとって、デストロのような熟練した強敵を相手にすれば、キアンが深刻な傷を負う可能性が高いことは明らかだった。



 フローラを追っていたケーニヒがデストロに声をかけた。

「ボス、俺がそっちに合流した方が。」


 デストロが苛立ったように怒鳴った。

「さっさとあの女を捕まえろ! あいつをどうにかしない限り、こいつらは倒せない!」


 本来なら、一撃で仕留められなくても、少しずつ傷を増やし、体力を削って倒すことができるはずだった。しかし、フローラの存在がある限り、この均衡を崩すことはできなかった。


 蝶のように優雅に人々の間を駆け抜けるフローラを見つめていた、ルインが焦った声で言った。

「デストロ、あの女、もしかして噂の〈白い魔女〉じゃないのか?」


 デストロは強い口調で否定した。

「そんなはずがない。本物の白い魔女なら、俺たちはもう死んでる。」


 ケーニヒとラポがさらに必死になってフローラを追った。

 フローラは意味深な眼差しを向けると、滑るように動きながら疾風の方へと近づいていった。


 ‒ こっちに来るぞ。疾風、準備しろ。

 アオイデが疾風に注意を促した。


 疾風の目の前まで一気に迫ったフローラは、突然バク転するように両脚を上げ、そのまま体を空中で回転させた。


 ケーニヒの視界からフローラの姿が消えたかと思った瞬間、疾風が素早く体当たりし、ケーニヒを吹き飛ばした。避ける間もなく弾き飛ばされたケーニヒの体は宙を舞い、地面に叩きつけられた。


 倒れたケーニヒの目の前にはフローラが立っていた。彼女の手には一本の長い針が握られていた。フローラの手を離れた針は、正確にケーニヒの心臓の上へと落ち、深々と突き刺さった。


 ラポはケーニヒを振り返る余裕もなく、苦痛に歪んだ鬼のような表情のエルフから矢の猛攻を浴びた。矢が3本、連続して飛来する。2本は身を翻してなんとか回避したが、最後の1本がラポの喉を貫いた。


 ユニスは次の標的として、レオンと剣を交えているデストロに狙いを定めた。ちょうどユニスに背を向けた状態で体を回しているタイミングだった。


 ユニスの矢が飛んでくるのを察したのか、デストロが身をひねったが、矢は彼の肩を捉えた。

 その瞬間、わずかな隙が生まれた。


 レオンの剣が渾身の力を込めてデストロへ振り下ろされた。デストロは剣を構えて受け止めようとしたが、レオンの剣はデストロの剣を粉々に砕き、そのまま彼の頭を叩き割った。


「兄貴!」

 ルインが悲痛な叫びを上げ、デストロを振り返った。それを機に、アルの剣がルインの顔を狙って突き込まれた。


 ルインは紙一重でそれを避けたが、鉄仮面が砕けて外れた。仮面の下に隠されていたルインの素顔は、デストロと瓜二つだった。


 今度は、背後からメイスを振るったマックスボーンがルインの背中を強打した。よろめくルインに飛びかかったアルは、短剣を彼の体に突き刺し、そこに爆裂魔法を込めた。轟音とともに激しい炎が瞬時にルインの全身を包み込んだ。


 デストロの死によって、拮抗していた戦況のバランスは一瞬にして崩れ去った。

 キアンはメイスを振り下ろし、抵抗するアントンを仕留めた。

 ダクルはユニスの矢の猛攻に押されてふらついたところを、マックスボーンがメイスで止めを刺した。


 敵をすべて討ち取ったことを確認すると、レオンは荒い息を整えながら剣を一回転させ、べっとりと付いた血を振り払い、鞘へと納めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ