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畜生脱出〜後は異世界冒険  作者: 星を数える
Ⅲ 混沌の地
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31. 殺すか、殺されるか(3/4)

 疾風は、目まぐるしく展開する乱戦を、焦って見つめていた。

 フローラは2人の追撃者に追われながらも、仲間の傷を必死に癒やしていた。マックスボーンとキアンは、3人の男と対峙していた。


 一方、レオンとアルはデストロとルインを相手に苦戦していた。

 疾風の目から見ても、デストロとルインはこれまで出会った中で最強の敵だった。2人はまるで一人のように連携し、大柄な筋肉質の体から放たれる強烈かつ鋭い攻撃を、絶え間なく繰り出していた。


 レオンとアルは、なんとか防いでいたものの、決定的な一撃を加えることができずにいた。フローラがひたすら2人の傷を癒やし続けることで、辛うじて均衡が保たれている状態だった。


(どうにかできないんですか? 音波攻撃とか。)

 アオイデに尋ねたが、返ってきた答えは期待外れだった。

 ― このような乱戦では無理だ。味方まで巻き込んでしまう。ティルヘススみたいな巨大な魔獣を相手にするとは状況が違うのだ。


(じゃあ、どうしますか? このままじゃ、押し負けるかもしれませんよ。)

 ― とにかく、もう一度ウォークライだ。


 疾風が返事をする前に、アオイデがウォークライを発動した。

「うおおおっ!」


 デストロが一瞬呆気に取られ、周囲を見回した。

「誰だ? この騎士じゃなかったのか?」


 その時、遠くの闇の中からユニスの鋭い悲鳴が響いた。疾風が驚いてそちらを振り向くと、アオイデが言った。

 ― 行こう。あっちなら、邪魔が入らないから、音波攻撃も使える。

 疾風は考える間もなく、悲鳴の聞こえた方へ走り出した。



 疾風が駆け出すと、マックスボーンが反射的に体を向けたが、アルが叫んだ。

「今は疾風を追う時じゃありません、マックスボーン! むしろ邪魔になります! こいつらを片付けましょう!」

 マックスボーンはうなずき、目の前の敵に集中した。



 疾風はユニスの元へ向かいつつ、『競馬のCMソング』で音波攻撃を放ち、ユニスに迫っているリスティーンを吹き飛ばした。

 リスティーンは慌てて防御魔法を展開し、後方へずるずると押し戻された。


「ユニス、早く僕に乗って!」

 ユニスは片足を引きずりながらも、疾風に飛び乗った。


 疾風は「結束」を発動し、ユニスに言った。

「もう僕から落ちる心配はないから、安心して動いて。降りるときは、言ってね。」


 その時、疾風の頭の中に馴染みのある音楽が流れ始めた。

 アオイデが言った。

 ― 君には勇気を奮い立たせ、敵には注意力を乱す音波攻撃をかけよう。君はユニスがあの女を仕留められるようにうまく援護しなさい。


 クラシックの旋律が頭の中を流れはじめ、ソプラノの高く澄んだ歌声が聞こえてきた。

(何ですか、これ?)


 ‒ モーツァルトの《夜の女王のアリア》だ。美しい曲なんだけど、英雄戦士のイメージには合わないから、君には歌わせないよ。

(それはどうも。)


 口から歌が漏れ出さないだけでも幸いだと思いつつ、疾風は距離を詰めようとするリスティーンの突進を避け、遠くへと退いた。適度な距離を取って、ユニスが弓で攻撃する方が有利だった。


「やはり、ただの馬ではないな。精霊術を使っているのか?」

 リスティーンは、頭の中で響き続けるウィーンという耳障りな音に苛立ちながら歯を食いしばった。防御魔法で遮ろうとしたが、完全に防ぐことはできなかった。


 そういえば、あの馬が近づいてきたときにも音波攻撃を使っていた。闇に紛れ、視認しにくい黒い馬の姿を睨みながら、リスティーンは呟いた。

「妖精馬、いや、竜馬か。」


 リスティーンは、先ほどユニスに使ったものと同じ矢を番え、今度は疾風を狙った。その間も、ユニスの放つ矢が次々と飛んできた。リスティーンは水の魔法で矢を防ぎながら、攻撃の隙をうかがっていた。


 疾風はリスティーンに対し、正面と下腹部が相手に晒されないように、方向を巧みに変えながら距離を取るように動いていた。馬として、正面と下腹部が弱点であることは、本能的な直感だけでなく、幼駒の頃からの訓練で何度も叩き込まれてきた事実だった。


 リスティーンの矢が疾風の太ももに突き刺さった。

(うわっ、痛ぇ!)

 疾風は痛みと苛立ちで体を震わせたが、ユニスのように動けなくなるほどの激痛ではなかった。


 それを悟ったリスティーンは、素早く武器を毒針に持ち替えた。馬に乗ったユニスを狙うより、疾風の方が攻撃しやすいと判断したリスティーンの毒針が疾風を狙って飛んでいった。


(アオイデさん、矢と毒針、めちゃくちゃ痛いんですけど、こういうのは防げないんですか?)

 ― 我がいるから、まだ何とかカバーできているのだぞ。普通なら、もっとたくさん当たって、もっと痛いはずだ。


(精霊王でしょ? もっと強い攻撃はないんですか?)

 ― 器の問題もある。君は馬だろ。小さな杯に一升の酒を一気に注げるか? それにあの女、相当の強者だぞ。アルですら敵わない。


(えっ、そんなに強いの?)

 疾風はあらためてリスティーンの方を見た。



 疾風が毒針の攻撃を受けながらもリスティーンとの距離を一定に保ちながら動く中、余裕を取り戻したユニスは、歯をさらに噛み締め、全力で矢を撃ち続けた。矢が尽きると、身を屈めて地面に落ちた矢を拾い、その矢を放つ、曲芸のような動作を繰り返した。


 そうしているうちに、リスティーンの体には、次々と矢が突き刺さっていった。

 そして、彼女が荒い息を吐き、手にしていた毒針の笛を落とした瞬間、ユニスの矢が額を貫いた。


「疾風。」

 ユニスの声に疾風が結束を解くと、彼女は馬を降り、リスティーンの死を確認した。目を開けたまま息絶えたリスティーンから何本かの矢を回収したユニスは、再び疾風にまたがった。


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