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畜生脱出〜後は異世界冒険  作者: 星を数える
Ⅲ 混沌の地
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25. 湿地の魔獣、ティルヘスス(1)

 濃く立ち込めた霧は、執拗な占領軍のように空気にまとわりつき、なかなか晴れようとしなかった。霧をかき分けながら湿地を進んでいた一行は、比較的地面が少々高く、水気の少ない場所を選び、昼食を兼ねてしばし休憩を取ることにした。


 真夏の過酷な暑さは過ぎたものの、まだ昼間の気温は高く、何より湿度が高いため、人も馬もすぐに疲れてしまう状況だった。


「はぁ、こいつらめ、またくっついてやがる。」

 マックスボーンは、馬の脚に張り付いたヒルを懸命に取り除いていた。人間は全員馬に乗っているため問題ないが、馬たちはそうはいかなかった。


 マックスボーンがこまめに確認しては取り除いているものの、水がぬかるんでいる湿地帯では、ヒルが次から次へとまとわりついてくるのだった。


「でも、それは、多少なりともお金になりますから、捨てないでちゃんと取っておいてくださいね。ちょっとした小遣い稼ぎくらいにはなるでしょう。」

 フローラが言った。


「ええ、そうしてますよ。」

 マックスボーンは、水を入れた小さな革袋に、取り除いたヒルを入れていった。


 フローラによると、ヒルは医療用として需要があり、安全都市で売ればお金になるのだという。その話を聞いてから、マックスボーンは、小遣い稼ぎのつもりで、ヒルをしっかりと回収するようにしていた。


 高い湿度と暑さで、みんな食欲もあまりなく、炒ったバッタとパン、そしてお茶で簡単に昼食を済ませた。そして、目の前の風景をぼんやりと眺めながら、しばしの間、無心で過ごしていた。


 そんな時、不意にアオイデが疾風に話しかけてきた。

 ― あっちで助けを求めている人たちがいるな。どうする?


(助けを求めてるって? 誰がですか?)

 ― 冒険者パーティーみたいだな。危機的状況だから、誰でもいいから助けてくれってことだろう。


 疾風はひとまず仲間に、アオイデの言葉を伝えた。

 フローラが尋ねた。

「それって、人間なの? 具体的にどんな状況?」


 ― ティルヘススが2頭、出現した。

 疾風がアオイデの言葉を口にすると、フローラ、レオン、アルの3人が勢いよく立ち上がった。キアンも状況を理解したのか、腰に差していた剣をすぐに手に取った。


 レオンは急いで疾風に近づき、仲間に言った。

「1匹は俺たちで仕留めましょう。」


 アルは鼻をひくつかせ、頭をかいた。

「厄介なヤツなのに、二頭も出るとはな。」


「疾風、先導してくれ。」

 レオンが疾風を促した。


 ― 右へ進め。あっちに長いツルが垂れ下がった木が見えるだろう? あれを越えればいい。

 アオイデの指示に従い、疾風が走り出し、仲間たちもその後に続いた。


 レオンは走りながら疾風に簡単に説明した。

「ティルヘススは、4本の脚が生えた巨大なウナギのような魔獣だ。魔力を封じて魔法を使えなくするし、尻尾と顎の周りにある触手で攻撃してくる。触手を突き刺して血を吸うから気をつけろ。特に顎に噛まれないようにしろ。一度に大量の血を吸われると危険だからな。」


「分かった。」

「あと、常に周囲に小さな沼地を作り出すから、足を取られそうになったらすぐにそこから抜け出せ。」


「うん。」

 聞くだけでも厄介な相手に思え、疾風は緊張を覚えた。



 アオイデが導く方向へ進むと、やがてレオンが説明した怪物が2頭、視界に入った。


 そして、その前では騎士と戦士が苦戦しており、少し離れたところには魔法使いと神官らしき2人がいた。魔法使いはどうすることもできず、両手を握りしめて焦燥している様子だった。神官は倒れた仲間に回復術をかけていた。


 騎士の腕と脚には、魔獣の触手が絡みついていた。その隣では、女戦士が膝まで沼に沈み、身動きが取れない状態で、迫る触手を必死に防いでいた。騎士は剣で触手を切り離そうとしていたが、力が足りないのか、次第に怪物の方へと引き寄せられていった。


 大きく開いた怪物の顎が、騎士の頭を丸呑みにしようとする瞬間、ユニスの放った矢が魔獣の頭に突き刺さった。


「グギャアァッ!」

 魔獣は苦しみ、騎士から離れた。


「みんな、馬から降りてください! 最初のうちは魔法が使えないので、接近戦で戦うしかありません。馬は沼に沈んでしまうので、近づけてはダメです!」

 フローラが大声で叫んだ。


 レオン、アル、キアンはすぐに馬を降り、剣を抜いて2頭のうち一方に向かって突進した。

「キアン、まずは触手を切れ! 根元から斬らないと再生するぞ! 触手を全部断ち切り落とすまでは、アルが魔法を使えない!」

 レオンがそう叫んで駆け出した。


 ユニスは、3人の背後から矢を素早く連射し、魔獣の動きを牽制した。


「うわっ!」

 アルの足元に突如沼地が生まれ、ずぶずぶと沈み込んだ。

 キアンが素早く駆け寄り、アルの腕を掴んで引き上げた。


 その間に、レオンは魔獣に接近し、一本の触手の根元を斬り落とした。しかし、片方の腕に別の触手が絡みつき、貪欲に血を吸い取っていた。レオンは歯を食いしばり、その触手を剣で断ち切った。

 ブシュッ!


 切断された触手の根元から血が吹き出し、レオンの顔に飛び散った。断ち切られた触手はたちまち再生してしまった。


 ティルヘススは触手と顎で吸血を狙うだけでなく、長い尻尾と前脚を荒々しく振り回して攻撃してきた。さらに、次々と湧き出す沼地が足を絡めとり、動きを阻害してくる。


 背後に残っている疾風は、この光景を見守りながら逡巡していた。助けたいとは思うが、この状況で何ができるのか見当がつかなかった。


 ― 手を貸そうか?

 気軽な口調でアオイデが問いかけると、疾風は焦る気持ちのままに、即座にオーケーしてしまった。


 すると、突然、疾風の口から「ウオオオォォォッ!」という猛々しい咆哮が轟き、ドゥゥゥンと振動音とともに、疾風の周囲に円形の衝撃波が広がった。


 その瞬間、魔獣と戦っていた人々が一斉に身を震わせ、「ウオオォォッ!」と力強い雄叫びを上げ、猛烈な勢いで怪物に襲いかかっていった。


 どこかで聞いたことのある― 疾風の記憶にある音だった。

(こ、これって、もしかして、ゲーム『ディアブロ』のバーバリアンのあれ?)


 ― ふふ、そうだよ。ウォークライを応用してスキルを作ってみたのだ。戦意と力を倍増させる〈バフ〉付き! どうだ? カッコいいだろう?

 アオイデが得意げに言った。


 効果はともかく、自分の口からこんな、脳まで筋肉でできていそうな男臭い声が出たことに、疾風は恥ずかしさで気が狂いそうだった。


(いや、なんでよりによってこの声なんだよ。)

 ― 英雄戦士のイメージにピッタリじゃないか。ほら、効果も抜群だろ?


 疾風の反応をものともせず、アオイデは次のスキルを提案した。

 ― さあ、今度は音波攻撃を試してみよう。まずは奴に近づけ。


(え?)

 ― 言っただろう? 君の体を動かすのは、君の意思だ。後方支援で終わるのではなく、攻撃にも加わりたいなら、ヤツに接近しないと。


 レオンなしで、魔獣に単独で近づく状況は、今まで経験したことがなかった。しかし、ウォークライの効果のせいか、あまり恐怖は感じなかった。


(先に言ってくれれば、レオンと一緒に行ったのに。)

 内心で文句を言いながら、疾風はレオンが相手をしている怪物へと駆け出した。


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