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畜生脱出〜後は異世界冒険  作者: 星を数える
Ⅲ 混沌の地
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22. 挑戦を決める

 ユニスから精霊との契約の話を聞くなり、アルは否定的な反応を示した。

「精霊と契約を結ぶのは、誰にでもできることじゃない。まず契約希望者が精霊の気に入らなきゃいけない。精霊ってのは気まぐれだから、予測がつかないんだ。

 仮に気に入られたとしても、過酷な試練を乗り越えなきゃならないし、失敗した時のリスクが大きすぎる。精霊術師が滅多にいないのはそういう理由だよ。」


 ユニスはアルとは意見が違っていた。

「間違った話ではないけど、疾風は特別だから、精霊が気に入る可能性もあるわ。精霊も面白いものが好きだもの。それに、試練を耐え抜けるかどうかは、疾風の精神力と意志の強さ次第よ。」


「危険かもしれないって言ったけど、具体的にどんな危険がある?」

 レオンが真剣な口調で尋ねた。


「契約を結ぶには、精霊から課される試練を乗り越えなきゃならない。特に上級以上の精霊と契約するには、相当厳しくて過酷な試練を通過しないといけないわ。

 どんな試練なのかは、私も分からない。契約希望者の条件や状態によって、その都度、違うって話もある。でも、ものすごく苦痛で大変な過程だってことは知られているわ。」


「疾風が、そんな試練に耐えられるのか?」

「それはさっきも言った通り、疾風次第よ。」

 ユニスの答えを聞いて、レオンは複雑な表情で疾風を見つめた。


 疾風は、レオンが反対するのではないかと内心気がかりだった。レオンの表情から、この件に反対する気持ちが感じられたが、


 レオンはそれを言葉にはせず、ユニスにさらに質問を続けた。

「試練を乗り越えられなかったら、どうなるんだ?」


「試練に耐えられず、精神が崩壊することもあるわ。試練を乗り越えるには、それ相応の精神力と強い意志が必要なの。精霊は決して、誰にでも力を貸してくれるわけじゃないから。

 もちろん、精神が崩壊する前に、契約の失敗を認めれば、そういう事態は避けられる。でも、契約に失敗した場合は、代償を支払わなきゃならないわ。命を奪われることだってある。

 ただ、私みたいな仲介者がいる場合は、その負担を分け合うこともできるの。追加で別の代償を約束することでね。」


 この話の流れで、フローラが口を挟んだ。

「ユニスが仲介して負担を分けるってこと?」


「疾風が挑戦を望むなら、そのつもりよ。」

「どうして? そんなことをする理由があるの?」


「あ〜、相変わらず疑い深いわね。」

 ユニスはため息をついた。


 フローラは冷静な表情で答えた。

「理由のない好意など、ないから。」


「面白そうだからよ。疾風って特別で、見ていて楽しいもの。」

「たかが、そんな理由で、危険を一緒に背負うっていうのか?」

 アルも疑わしそうな反応を見せた。


 ユニスは眉をひそめ、再び深くため息をついた。

「人間って時々、無駄に深刻になりすぎるのよね。面白いことを追求するのがそんなに悪いこと? 何かすごい理由を期待してたなら、ごめんなさいね。

 でもね、疾風が声を手に入れたら、これからもっと面白いことが増えそうじゃない?」


 それまで黙っていたキアンが口を開いた。

「ユニスは、疾風の精神力がその試練に耐えられると思っているのか?」


「そう思うからこそ、この意見を出したのよ。」

「何を根拠にそう判断した?」


「疾風は本当に特別よ。考えてみて。別の世界で英雄戦士として壮絶な死を遂げたのに、いきなりこの世界で馬として生まれ変わったのよ?

 普通なら、絶望して投げやりになってもおかしくないのに、疾風は諦めずに、ずっと別の可能性を探して努力してきた。それだけでも、ものすごい精神力じゃない?」


 ユニスの言葉を聞き、仲間たちは納得したようで、改めて疾風を尊敬の眼差しで見つめた。


 疾風は、その場で穴を掘って隠れたくなる気分だった。確かに諦めずに努力はしてきたが、最初のささいな嘘と、それによるマックスボーンの誤解が生んだ波紋はあまりにも大きく深かった。


(軽々しく嘘をついちゃいけないんだな。)

 悲しく後悔しつつ、疾風はしょんぼりと俯いた。

 ともかく、疾風の精神力については、これで皆が納得したようだった。


 すると、フローラが再びユニスに尋ねた。

「じゃあ、失敗した場合の代償として、何を考えているの?」


「交渉してみないと分からないけど、私は魔道具の職人だから、その方面で提案するつもりよ。ちょうど音に関するいいアイテムを持ってるしね。

 疾風自身も、何を代償にするか決める必要があるけど。」


 皆の視線が疾風に集まった。

 疾風は文字盤を指し、隣のマックスボーンがそれを代読した。

【俺が差し出せるものなんてあるのか?】


 ユニスが答えた。

「命以外なら、普通は身体の一部とか、自分が持っている何らかの機能や才能を差し出すことが多いわね。」


 疾風は考え込んだ。

 身体の一部は絶対に無理だし、機能や才能なら何があるだろう?しばらく悩んだ末、疾風は再び文字盤を指した。


 マックスボーンは一瞬止まり、恥ずかしそうに読み上げた。

【…性機能とかどう?】


 男たちの間に、気まずい沈黙が流れた。

 一方、ユニスとフローラは大笑いし、ユニスは目尻に滲んだ涙を拭いながら言った。

「それは斬新ね! 確かに、男にとってはめちゃくちゃ大問題だわ。」


 疾風は平然と文字盤で答えた。

【だれかさんのおかげで、子孫ももう見たし、思い残すことはないよ。】


 フローラは笑い終えた後、ユニスに尋ねた。

「どう? これで万が一に備えた準備は整ったと思う?」

「まあ、一応ね。あとは疾風の決断次第で、挑戦してみるだけよ。」


 疾風の心は当然ながら挑戦する方向に傾いていた。試練がどれほど過酷なものかは不安だが、もしここで挑戦しなければ、この先も自分の現状を変えることはできないような気がした。

 疾風にとって、この旅の目的は『今の自分を変えること』だった。


 疾風は以前、キアンに語った言葉を自分に言い聞かせた。

(挑戦してみよう。どんな試練であろうと、挑んで耐えてみせる。運命を変えたいなら、自ら動くしかない!)


 それに、もし命を賭けなければならないのなら、もっと迷ったかもしれないが、性機能程度ならいくらでも捨てる覚悟があった。


【挑戦してみたい】

「いいわ。試練を受けて、どうしても無理だと思ったら、降参すればいい。

 ただし、その時にすぐ『性機能を差し出す』なんて言っちゃダメよ。その前に、しっかり悩んでいるフリをしなさい。

 あまりに簡単に諦められるものだと気づかれたら、別のものを要求されるかもしれない。大切なものでなければ価値は下がるものだからね。精霊は決して優しい存在じゃないのよ。」

 ユニスが念を押した。


【わかった】

 もし失敗した場合、まずは性機能を差し出すことで交渉し、それが受け入れられなければ、「結束」や「威圧」といった特殊なスキルもあるし、何とかなるだろうと考えた。


「よし、それじゃあ雨が止むのを待って、実行に移そう。」

 ユニスがそう言うと、疾風は決意を込めて力強く頷いた。


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