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畜生脱出〜後は異世界冒険  作者: 星を数える
Ⅰ エレンシア
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3. 畜生脱出、はじまる!

 疾風は仔馬の頃からの記憶と人々から聞いた話を基に、この世界に関する情報を自分なりにまとめてみた。


 1.この世界には魔法と回復術、神聖術などがあり、妖精やドラゴン以外にもさまざまな魔獣がいるらしい。


 2.レオンの家族が住むエレンシアは、島国で平和な土地である。


 3.向かい側の大陸は、複数の国に分かれており、頻繁に戦争が起きている。


 4.この村は静かな漁村で、住民は主に漁師や農民である。レオンの母親レイナを除けば、魔法使いは一人もいない。ただし、レイナは回復術師であり、回復術や薬には精通しているが、それ以外の魔法は扱えない。


 5.ウィレムは、レオンの実の父親ではなく、亡くなったレオンの実父は大陸の人で騎士だったらしい。


 6.レオンは大陸で生まれ、実父の影響からか騎士を目指している。また、何らかの目的を持って大陸への旅を計画している。


 7.レオンの剣術の師匠ロートリックは、大陸からの旅行者で、近いうちにエレンシアを離れる予定である。


 8.〈疾風〉という名前は、レオンが付けた。また、家にいる毛が長居大型犬の名前は「シロ」で、これもレオンが名付けた。したがって、レオンの命名センスはあまり良くない。


 以上を総合すると、現在疾風が暮らしているこの村は、平和でのどかなところだった。穏やかな生活を楽しむには申し分ないが、疾風の立場からすると、ここで暮らす以上、〈馬として生き、馬として死ぬ〉運命は決まったようなものだった。


(どこかに私のことを見極めてくれる隠遁の魔法使いでもいないのかな?)

 淡い期待を抱いてみたものの、その気配は微塵もなかった。人々の話から察するに、魔法使いはそうあり触れた存在ではないようだった。


 熟考の末、疾風が出した結論は、レオンに従い大陸旅行に出ることだった。この村を離れ、広い世界へ飛び出さなければ、新たな可能性を開くチャンスは見つからない。


 こうして疾風は、競走大会の準備を素直に受け入れた。記憶を取り戻した日に、勢いで走って気づいたことだが、走ることは性に合っており、思い切り走るとストレスも発散できた。


 大会で良い成績を収めたら、賞金を稼げる。それがあれば、より快適で楽しい旅ができるという現実的な計算もあった。


 疾風は受験生時代のような勤勉な生活へと踏み出した。しっかり組まれたトレーニングと競走練習、厳格な体重管理が日課を埋めた。


 *** ***


 疾風の第2の能力が分かったのは、レオンの剣術の師匠であるロートリックが大陸へ戻る日のことだった。

 レオンは、彼との別れを惜しみ、村から遠く離れた場所まで見送りに出た。


「そろそろ帰らないと。このままだと、港まで付き添ってしまいそうだ。」

 ロートリックは冗談交じりに言って、早く帰れと手を振った。


「疾風と一緒だから大丈夫です。」

「でも、あまり遅くなると、ご両親が心配するだろう。ここで別れよう。」


 ロートリックが言うと、レオンは仕方なく疾風を止めて、深く頭を下げて礼を言った。

「この2年間、本当にありがとうございました、師匠。」


「なに、こちらこそ楽しい時間を過ごせたよ。後で大陸へ旅行に来たら、ぜひブレイツリーの王都シトマに寄ってくれ。ピター通りの『黒いトサカの雄鶏』という宿を探して、俺の名前を出せば連絡がつくだろう。他にも何かあったら、いつでもそこへ連絡していい。」


「わかりました。」

 レオンと疾風はその場に立ち、遠ざかっていくロートリックの姿が見えなくなるまで見守った。



「本当にだいぶ遠くまで来ちゃったね。早く帰ろう。」

 人家が全く見当たらない辺ぴなところだった。レオンと疾風は速度を上げ、森を突っ切って走り抜けていた。


 途中で、不意に道端の草むらから子鹿が飛び出してきた。衝突しそうな瞬間、疾風は思わず声を上げた。

 ‒ 止まれ!


 とたん、子鹿の動きが本当に一時停止したように見えた。疾風は向きを少し変え、衝突を避けて子鹿を通り過ぎた。一瞬の出来事だったため、レオンは気づかなかった。そして子鹿はすぐに反対側へピョンピョン跳ねて逃げていったので、疾風もわずかな違和感を覚えた程度でそのまま走り続けた。



 家に帰った後も、あの時の感覚がどうにも引っかかった疾風は、子鹿と遭遇した直後に感じた違和感のことをじっくり考えた。


(確かに一瞬だけど、動きが止まったような気がする。気のせいかな?)

 当時の状況を何度も思い返していると、足元が妙にざわつく感じがした。気づけば、シロがやってきて、遊ぼうとせがんでいた。


 疾風とほぼ同じ時期に生まれたシロは、子犬と子馬だった頃から共に育ち、気兼ねない仲だった。前世でも犬を飼っていた疾風にとって、シロは癒しそのものだった。


 ‒ 今、重要なことを考えてるんだ。後で遊ぼう。

 優しく諭したものの、実は、馬と犬の間では意思疎通できなかった。


 疾風の経験からして、動物同士でも種族間ではコミュニケーションの断絶があった。それでも、身振りや声、表情などで大体の意思を伝え合うことはでき、共に遊ぶのに特に問題はなかった。


 ともかく、疾風の言うことが分からないシロは、舌を出して楽しそうに、疾風の脚にまとわりついてきた。面倒になった疾風は、前足で軽く地面をトンと叩きながら言った。


 ‒ 少しおとなしくしてね。

 すると、シロの動きが止まった。少し経ってシロが動き出したので、疾風は試しにもう一度言った。

 ‒ 止まって。


 今度は効果がなかった。そこで前足で地面をトンと叩きながら言うと、これには効果があった。

 ‒ お〜。こんなのができるんだ。でも、発動条件があるのか。


 疾風はシロを相手に何度か実験を繰り返し、前足で地面を叩きながら「止まれ」と言うと、相手の動きが約3秒間止まることを突き止めた。


 そうしている間に、つまらなくなったのか、それとも何か異変を感じ取ったのか、シロがそっと離れていこうとする気配がした。


 ‒ 止まれ。

 疾風から逃げようとしたシロがまた止まっては、すぐに全速力で逃げ出した。済まない気持ちになった疾風は、シロを呼び止めた。


 ‒ ごめん、もうしないよ。

 疾風の鳴き声に、シロは振り返った。


 ‒ おいで。一緒に遊ぼう。

 しかし、シロはすねているのか、不満げな目つきで疾風を見つめて、サッと家の中に入ってしまった。

 実験体になってくれたシロには、少し申し訳ない気持ちもあったが、疾風は非常に興奮していた。


「2つ目の能力発見!時間は短いけど、何かに役立つかも。これからじっくり研究してみよう。」


 せっかく能力を見つけたのだから、カッコいい名を付けようと思った疾風は、この2つ目のスキルに〈威圧〉という名を付けた。そして、ついでに1つ目のスキルについても〈結束〉と名付けることにした。相手を自分から離れられなくする能力だから、〈束縛〉にしようかとも考えたが、相手の立場からすると気分が悪くなるかもしれないと配慮し、〈結束〉に変更したのだった。


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