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畜生脱出〜後は異世界冒険  作者: 星を数える
Ⅲ 混沌の地
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20. 担保にされたエルフ

 エルフの村で夢のような休息を過ごした後、レオンたちはユニスと共にそこを後にした。

 1年半後、妖精馬が出産した際に、約束された2頭の子馬を確実に受け取るための担保が必要だと、アルとマックスボーンが強く主張した結果だった。


「まったく、エルフを担保にしろだなんて! あなたたちは、本当にエルフに対する礼儀ってものが微塵もないんですね!」

 ユニスは不機嫌そうに、アルとマックスボーンを睨みつけた。


「契約を確実に履行させるには、保証や担保が必要なのは当然の理屈です。」

 アルはあくまで堂々としていた。


「つまり、森のエルフの約束を信じられないってこと?」

「当然でしょう。つい最近会ったばかりなのに、あなたたちのことをどう信じ切れるのですか?

 それに、あなたたちの村なんて、こっちが行きたくても行けない場所にあるじゃないですか?」


「人間って、どうしてそんなに疑い深いの?そんなに信じ合えないから、いつも争ってばかりいるのよ!」

「いちいち『人間、人間』って言わないでください。聞いてる身として不愉快になります。」


 ユニスは、一言も引かないアルを鋭く睨みつけると、「ふんっ」と鼻を鳴らしながらそっぽを向いた。


 レオンは苦笑して仲裁に入った。

「ともかく、これから少なくとも1年間は一緒に過ごす仲です。気持ちを落ち着けて、仲良くやりましょう。

 無理やり同行させてしまって、申し訳ありません、ユニスさん。」


 レオンが謝ると、ユニスは仕方なさそうに受け入れた。

「まあ、もともと魔石や素材を集めるついでに、時々村の外に出ることもあるし、今回はそのついでってことにしとくわ。

 それに、私はまだ300歳にもなってないから、『さん』付けする必要ないわよ。」


 初対面から疎まれていたアルとは違い、礼儀正しい態度で接し、端正な顔立ちのレオンに好感を抱いていたユニスは、できるだけ清楚で可愛らしい表情を作ってみせた。


 しかし、やはりアルが場の雰囲気をぶち壊した。

「うわ〜、俺たちの年齢を全部足しても、まだ倍以上じゃん。大おばあちゃんだな。」


(こいつ、本当に。)

 ユニスは顔をそむけ、拳をギュッと握りしめた。できることなら、その憎たらしい口に、パンチを食らわせてやりたい気持ちでいっぱいだった。


 レオンは指を口元に当ててアルを黙らせると、すかさず話題を変えた。彼はユニスの背中に背負われた弓を指さした。

「弓使いなのですね。森のエルフには優れた弓の使い手が多いと聞いています。」


「ええ。弓使いであり、魔導具の職人でもあります。」

「魔導具職人!?」

 その言葉に、アルの目がキラリと輝いた。


「魔導具職人なら、つまり。」

 ユニスはアルの言葉を遮り、鋭く言い放った。


「あなたはお願いだから、黙ってて!」

 アルは何か言い返そうとしたが、レオンの目配せを受けて、不満げな顔をしながらも口をつぐんだ。


「どんなものを主に作るのですか?」

 フローラが興味を示した。


 少し気分が和らいだのか、ユニスは優しく答えた。

「護符よ。ブレスレットやイヤリング、指輪、ペンダント、サークレットみたいな形に加工するの。大きな武器は作れないけど、小型の武器くらいなら作ることもあるわ。それと、携帯用の道具も持ってきたわよ。」

 ユニスは、自分の鞍の後ろに積んである荷物をポンポンと叩いた。


「それはちょうどいいわね! 私、アクセサリーが大好きなの。今度、作るところを見せてくれない?」

 フローラが手を叩いて喜んだ。


 ユニスはそんな無邪気な顔のフローラを見つめながら、首をかしげた。

「フローラは18歳だと言ってたよね?」


「うん、そうだけど?」

 フローラはにこにこと微笑みながら答えた。


「うーん。なんて言えばいいのか分からないけど、ちょっと不思議なのよね。まだ人間のことをよく知らないからかもしれないけど。」

 ユニスは自信なさげに言葉を濁した。


 エルフの村を出る前、ユニスはティリエンに尋ねたことがあった。

「〈愛と平和のフローラ〉が、本来エルフの始祖が使っていた神聖術『聖なる世界樹の祝福』そのものだとしたら、それはエルフに権利があるものなのではありませんか? フローラさんに伝授するよう求めることはできないのでしょうか?」


 ティリエンは首を横に振った。

 彼は、その神聖術は教わって学ぶというものではなく、むしろ〈受け継がれる力〉に近いものであり、術者の性格や能力によって発現の仕方や威力に大きな差が出ると説明した。


 したがって、無理に奪おうとしたり、強引に学ぼうとしたりするのは、無意味であるどころか、むしろ大きな危険にさらされる恐れがあるという。


「もし友情と信頼の関係が築かれ、その古の知恵を分け与えてもらえることがあるのならば、それが最も望ましい道だろう。

 だが、肝に銘じておきなさい。人間の事には深く関わらないほうがいい。」


 古代の魔法帝国の興亡を見届けたと言われるティリエンは、誰にも何かを強要することはなかった。彼は青き湖の静かな守護者だった。


(術者によって姿や威力が変わる神聖術だとしたら、この子の頭の中には、そんな花畑が広がっているってことか?)


 ユニスは、無垢(むく)さと老練(ろうれん)さが入れ替わるように表れるフローラを見つめて、ふとそんな疑問を抱いた。

(まあ、花畑が綺麗なのは確かだけど。)


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