11. 魔獣の解体、魔石は運次第
スコピアナが倒れるのを見届けたフローラは、結界を解除して、まずアルの馬タマの負傷から手当てした。
「偉いね、タマ。見直したわ。」
フローラはタマを優しく撫でて誉めた。
アルが結界から出て魔法を使うとき、タマは多数のサソリの脅威にもかかわらず、アルの指示に従って躊躇なく飛び出て、はさみに切られ毒針に刺されながらも、暴れたり倒れたりせず堪えていた。
アルが誇らしげに胸を張った。
「こいつは軍馬だからな。そこら辺の一般の馬とは違うんだ。
っていうか、俺も怪我してて、痛いんだけど。」
「はい、はい。分かりました。まとめて治療しますので、こちらに来てください。」
フローラは、レオンとマックスボーンがいるところに向かった。
疾風の尻に配下のサソリの毒針が刺されていることを見たアルは、青醒めて疾風のところに走ってきては、フローラに慌ただしく催促した。
「他は後でいいから、早く疾風から手当して。疾風の体に傷跡でも残ったら、大変だよ。」
「当事者の疾風は落ち着いているのに、なぜアルのほうがこううるさいのですか?」
「疾風の体は、俺の体同然だからだよ。」
アルの答えに、レオンが不審そうに聞いた。
「どういう意味だ、それ?」
「お前は知らなくていい。フローラ、早く、早く。」
アルの催促に、仕方なくフローラは疾風の負傷から治療した。
疾風の手当てが終わって、フローラがみんなに言った。
「お疲れ様でした。まずは体力を回復しましょう。」
フローラが魔法のステッキを掲げた。
「あ、それはやめた方が。」
アルが止めようとしたが、もう遅かった。
「愛と平和のフローラ〜♪」
スコピアナの死体のすぐそばで、色とりどりの野花が咲き乱れた。男たちは半ば花々に埋もれた状態で、微妙な表情を浮かべて、傷の治療と体力回復を待つことになった。
回復と治療と回復を終えた一行は、すぐにスコピアナの解体作業に取りかかった。
「うーん、気性は荒かったけど、体つきは素晴らしいですね。」
スコピアナの豊満な胸の前に立ったマックスボーンが、鼻先をこすり真剣な表情で評価した。
「確かに、見事な谷間ですね。」
隣でアルも同意した。
フローラは二人を鋭く睨みつけ、解体用のナイフを手渡した。
「くだらないこと言わないで、さっさと解体してください。」
「なあ、フローラ。」
アルが恐る恐る尋ねた。
「これ、食べるの?」
「食べられなくもないのですが。半分は人型なので、気分的にちょっとですね。やめておきますわ。」
「ありがとう。」
アルはまるで恩を受けたかのように涙ぐみ、フローラの手をぎゅっと握った。
一方、レオンはひび割れ、刃こぼれだらけになった自分の剣を見つめ、眉をひそめていた。この剣は、エレンシアで騎士叙任の際にフィオールから授けられたもので、エレンシアの名匠が鍛えたそれなりに名のある武器だった。
フローラが近づき、剣の状態を見て言った。
「プレティオミで修理しなければなりませんね。あれを溶かして素材にすれば、もっと良くなりますわよ。」
フローラが指差したのは、スコピアナが使っていた剣だった。
長さ2メートル以上の巨大な武器で、人間には到底扱えないサイズだが、〈スコピアナ鋼〉と呼ばれるかなり優れた素材でできており、十分価値のある戦利品だった。
他にも、スコピアナの尻尾、毒液、爪、頭部など、売ればそれなりの金になる素材が揃っていた。だが、残念ながらスコピアナからは魔石は出てこなかった。
混沌の地に棲む魔獣から魔石を得られることは確かだが、すべての魔獣が魔石を持っているわけではなく、運次第だった。解体してみないと、魔石があるかどうかは分からないのだ。
スコピアナから得られる魔石は、強力な毒耐性を付与する〈毒の女王〉であり、市場でも高値で取引される貴重なものだった。
「〈毒の女王〉が出てたら、大金になったのになあ。」
残念そうに呟くアルに、キアンが不思議そうに尋ねた。
「アルはエレンシア王国魔法団の所属ですよね? お金を稼ぐ必要がありますか?」
アルは少し顔をしかめた。
「君は、まだ雇われの悲哀を知らないんだな。たまに手に入るまとまった金が、どれほど貴重か分かってない。」
「そうそう、分かります。」
隣で、マックスボーンが大きく頷いた。レオンも黙って頷き、同意を示した。
フローラは意味ありげな笑みを浮かべて言った。
「キアン、あんたもそのうち、この人たちの言っていることが分かるわよ。」




