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畜生脱出〜後は異世界冒険  作者: 星を数える
Ⅲ 混沌の地
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9. 砂漠での人助け

「この砂漠、いったいいつになったら終わるんだ? プレティオミがこんなに遠いと分かっていたら、途中でほかの街に寄っておくんだったな。」


 アルは滝のように額から流れる汗を袖で拭い、ぶつぶつと文句を言った。彼の脇の下はすでに汗でびっしょりと濡れており、茶色のローブはその部分だけ濃く浮かび上がっていた。


(まるで汗のウォーターパーク全開だな。)

 疾風も暑さに参ってはいたが、それ以上にアルの様子があまりにも面白くて、笑いをこらえるのが大変だった。


「ローブ、脱いだらどうだ? 見てるだけで暑そうだぞ。」

 レオンが勧めたが、アルは頑なだった。

「これを脱いだら、みんな俺のことを戦士だと勘違いするだろ? 魔法使いの象徴をそんな簡単に捨てるわけにはいかない!」


「誰が見るっていうのですか? ここには私たちしかいません。それに、アルは元々パワー系魔法使いでしょ?」

 フローラがからかうように言うと、アルはレオンを睨みつけた。

「お前だな? そんなデマを広めたのは?」


「さあね?」

 レオンは、すっとぼけて視線を逸らした。


「みんな、水を飲んで少し休みましょう。馬たちもそろそろ休ませたほうがよさそうです。」

 マックスボーンの提案に、全員が日陰を探して馬を降りた。


「うわあ、もうダメだ!」

 アルは、汗でぐっしょり濡れたローブを勢いよく脱ぎ捨てた。ローブの下は、袖なしの薄いシャツと半ズボン姿だった。


「ああ、涼しい。生き返る。」

 アルは半ば魂の抜けた顔で、水をガブガブと飲み干した。


 皆も大量の汗をかいていたため、喉の渇きが限界に達していた。いくら飲んでも飲み足りないような気がした。

 馬たちも夢中で水をがぶ飲みしていた。


「プレティオミに着くまで、どのくらいかかりますか? このままだと、また水が足りなくなりそうですが。」

 マックスボーンが不安げに尋ねると、フローラはきょとんとした表情で答えた。

「井戸を掘ればいいのではありませんか。」


 その一言を聞いた男たちの表情が一気に沈んだ。

 前回の経験上、それは少し地面を掘る程度のことではなく、深く掘り進める重労働を伴う作業だった。


「その問題は、あとで考えるとして、まずは休もうぜ。」

 レオンは平らな場所を見つけて腰を下ろした。

 皆も日陰に座り込み、ぼんやりと暑さをしのいでいた。


 ―そのときだった。

 灼熱の地面から陽炎が立ち昇る中、遠くに人影のようなものが見えた。よく見ると、4、5人の人間がふらふらと歩いていた。


 フローラとアルが立ち上がり、目を細めてじっとその姿を見つめた。

「あれ、本当に人間なの?」

 アルがフローラに尋ねると、彼女はもう少し観察してから答えた。

「そうですね、人間のようです。」


 それを聞くと、アルは、レオンへと手招きした。

「あの人たち、大変みたいだな。行ってみよう。」


 アルとレオンが近づいてみると、男4人と女1人の計5人の一行だった。ローブを着た女性は、半ば意識を失って、男仲間に背負われていた。

 ほかの男たちもひどく消耗している様子だった。


 彼らから少し離れたところでは、荷物を積んだ2頭のラクダが、ゆっくりと足を引きずるように歩いていた。


「大丈夫ですか?」

 レオンが声をかけると、女性を背負っている男が、乾ききった唇を震わせ、微かな声で言った。

「み、水を。」


 レオンはその女性を代わりに背負い、アルは特に衰弱している男を支えて、仲間が休んでいるところへと連れて行った。彼らは、マックスボーンが差し出した水を貪るように飲み干した。


 フローラは衰弱した女性魔法使いを寝かせ、口元に少しずつ水を流し込んで飲ませてやった。

「脱水症状に日射病の兆候もありますが、幸い、重症ではありません。少し休めば回復するでしょう。」


 フローラは5人の容態を丁寧に確認し、回復術を順番に施していった。そして、温かいスープを、彼らに食べさせた。


「こういうときに見ると、やっぱり光明神の司祭だな。」

 フローラの献身的な手当を眺めて、アルがレオンに小声で囁いた。


 フローラの回復術のおかげか、しばらく休むと、5人全員がすぐさま回復した。彼らは、冒険を始めたばかりの新人パーティーで、戦士2名、弓使い1名、回復術士1名、魔法使い1名という構成だった。運悪く砂漠に迷い込み、水と食料を失い、苦しんでいるところだった。


「皆さんにお会いできたのは、本当に幸運でした。」

 リーダーの戦士が心からの感謝を述べた。


「お互い困ったときは助け合うのが当然ですわ。」

 フローラは優しく微笑みながら答えて、「ちょっと周りを見てくる」と言い残して立ち上がった。


(井戸か。井戸を掘る場所を探しに行くんだな。)

 レオンたちは不吉な予感を抱え、互いに憂うつな視線を交わした。


 しばらくして戻ってきたフローラは、戦士2名、弓使い、回復術士をある場所へと連れて行った。彼らの手には、例外なくスコップとツルハシが渡された。


「光明神テナウェンのご加護によって、皆さんはすっかり回復されました。次は、私たちを救う生命の水を探し出す番です。

 ここを掘り続ければ、必ず水が湧き出るはずです。分からないことがあったら、マックスボーンさんに聞いてくださいね。」


 フローラは両手を合わせ、祈るような仕草をして優しく彼らを励ますと、マックスボーンと4人の男をその場に残して戻ってきた。


 ひとり取り残された女魔法使いのジェナは、スコップを手に作業を始めた仲間を見て、フローラに尋ねた。

「私は何をすればいいでしょうか?」


「食料探しを手伝ってもらえれば助かります。攻撃魔法の中では、どの属性が得意ですか?」

「電撃です。」


「ちょうどいいですね。」

 フローラはにっこりと微笑んで、すでに食料調達に向かったレオンやアル、キアンを指さした。

「彼らを手伝ってください。さあ、こちらへ。」


 そう言って、ジェナをレオンたちのもとへ連れて行った。

 井戸掘りではなく、食料調達を任された男たちは、重労働から解放された喜びに浸り、木の棒を手にトカゲやネズミのような小動物を捕まえることに夢中になっていた。


「この人たちがトカゲや砂ネズミを見つけたら、電撃魔法で軽く気絶させてください。」

「トカゲやネズミを、電撃魔法で?」

 戸惑って尋ねるジェナに、フローラは念を押すように言った。

「はい。焼き尽くしてしまってはいけません。気絶させる程度にしてくださいね。」


 それから、小さな袋を取り出して高く掲げ、男たちに向かって言った。

「一番多く捕まえた人には、この炒ったバッタを賞品として差し上げます!」


 男たちは袋を見つめて、拳を握りしめ、やる気をみなぎらせた。

「おおっ!バッタ!」

 ジェナは、この理解しがたい状況に必死で適応しようとしながら、男たちの食料調達活動に加わった。


「おお、イェーイ!デカいのを捕まえたぞ!」

 火属性の魔法で大きなトカゲを炙って捕獲し、喜ぶアルの姿を見て、ジェナの目が大きく見開かれた。


「魔法を使いますか?」

「もちろんです。魔法使いですから。」

 アルは当然のように答えたが、ジェナの目に映る彼の姿は、袖なしのシャツに半ズボン姿の筋肉男だった。


(仲間と一緒に混沌の地にいたはずなのに。いつの間にか別の世界に落ちてしまったようだわ。もしかして私は、灼熱の砂漠で暑さにやられて死んでしまったのでは?』

 彼女の思考は混乱の渦に巻き込まれていった。


 その夜、ジェナとその仲間は、聖なる術で浄化された美味しい水とともに、新たな〈食の世界〉に思いかけず目覚めることとなった。


 新米冒険者たちと一夜を共にしたレオン一行は、翌朝、彼らに水と食料を分け与えた後、別れを告げた。


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