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畜生脱出〜後は異世界冒険  作者: 星を数える
Ⅲ 混沌の地
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3. サバイバル専門家の威厳

「これ、何の肉だ?めっちゃうまい!」

 アルは感嘆しつつ口いっぱいに肉をほおばり、もぐもぐと噛みしめた。


「鶏肉っぽいけど、食感がちょっと違う気もするな。」

 レオンはどこかで食べたことがあるような、それでいて少しだけ独特な香りと食感に首をかしげた。


 一口サイズに切った肉を塩気の効いた調味料で和え、野菜と炒めた料理で、芳ばしいスープと一緒に食べることで、食欲が一層かき立てられた。過酷な労働の疲れや、魔女のようにこき使ったフローラへの不満も、この味で吹き飛んだ。


 食事が終わると、フローラを除く一行は、掘ったばかりの井戸へ向かい体を洗うことにした。井戸を掘る作業でたくさん汗をかき、服も土まみれだったからだ。


「服は浄化の祈りで綺麗にしますから、体を洗ってきてください。水はもう十分にありますし。」

「その浄化の祈りで、俺たちも一緒に浄化してくれない?」


 アルが冗談っぽく言うと、フローラが目をつり上げた。

「今、華奢(きゃしゃ)な乙女に男たちの体を浄化しろと、言うのですか?自分たちの体ぐらい自分で洗ってください!」


 アルはしょんぼりと井戸へ向かい、他の男たちも静かにその後ろに続いた。

華奢(きゃしゃ)な乙女って。どう見ても小さい魔女だろ。」


 ぶつぶつと文句を言っていたアルが、ふと何かを思いついたようにニヤリと笑って提案した。

「いっそのこと、全裸で洗ってみるのはどうだ? そうすれば、さすがの彼女も慌てるんじゃない?」


 キアンが首を振った。

「やめた方がいいと思います。恥ずかしい目に遭うのは、僕たちだけかもしれません。」


 レオンとマックスボーンも同意見だった。レオンがアルをなだめた。

「でも、こんなこところで水を見つけるなんて、すごいことだよ。俺たちだけじゃ、絶対に無理なことだ。」


「確かに。何より飯がうまいし。」

 美味しい食事だけがアルにとっての救いだった。


 マックスボーンが声を潜めて言った。

「ところで、あの〈愛と平和のフローラ〉のことですけど、愛と平和は一体どこにあるのでしょうね?」


 そんなの知るか、という顔でアルは、ローブとシャツをぱっと脱ぎ捨て、下着姿のまま水をざぶりとかぶった。



 体を洗って戻ってきた男たちは、フローラが手に持っている鮮やかな黄色の細長い物体を見て、最初は薄い毛布か何かだと思った。


「それ、何ですか?」

 興味を示して近づこうとしたマックスボーンは、ぎょっとして後ずさりした。それはかなり太い蛇だった。しかも一目見て毒蛇だとわかる種類だった。


 フローラは無邪気に言った。

「明日の朝ごはんですよ。ちょうど運よく見つけて捕まえました。どうやって料理しようか考え中です。」


「考えるな!そんなのどうやって食べるんだ!」

 アルは、恐れおののいてレオンの背中に隠れた。


「何をおっしゃいますか? さっきもあんなに美味しく召し上がっていたじゃないですか。」

 フローラの言葉に、アルはぽかんと口を開けた。

「さっきのあれ、蛇の肉だったの?」


「はい。これとは違う種類ですが。」

 顔色が土色になり、今にも吐きそうなアルに、フローラが素早く近づいて片手でアルの口を塞いだ。


「何するんですか? 命を捧げて私たちの食料になってくれた蛇の尊い犠牲を侮辱するつもりですか? もし吐いたら、明日からご飯抜きですよ!」

 もう片方の手で蛇の首を掴んだまま、フローラは厳しい目でアルを威圧した。


 フローラの手に握られている蛇と目が合ったアルは、震え上がりながら彼女から逃げるように離れ、口を押さえて涙目で呟いた。

「俺、そんな犠牲、蛇に頼んだ覚えないし。」


「ここは混沌の地ですよ。食べられるものは何でも食べないと生き残れません。」

 フローラは焚き火の前に戻り、平然とした顔で包丁を取り出し、蛇の頭を一気に叩き落として処理を始めた。


「蛇まで食うなんて。」

 暗い顔でぼやくアルの隣で、キアンも何とも言えない表情で地面を見つめていた。


 そんな二人と違い、マクスボーンは平然としていた。

「どこかで食べたことのある味だと思ったら、蛇でしたか。軍隊では仲間とたまに捕まえて食べたもんですよ。ああやって料理すると、また違った味がしますね。」


「フローラは本当にたくましいよな。俺たちの中で一番サバイバル能力が高そうだ。」

 レオンはおかしそうにクスクス笑った。


「それにしても、こんな大きい蛇が出るなんて、夜寝るとき、気を付けないとな。」

 アルは不安げに周りをきょろきょろ見回すと、マックスボーンに尋ねた。

「マックスボーン、蛇を食べたことあるなら捕まえるのも得意でしょ? 悪いけど、俺が夜見張りしてる間、蛇が出たら起こしてもいいですか?」


「うーん、普通の蛇ならいいんですけど、ああいう毒蛇を素手で捕まえるのは、自信がありませんね。蛇を捕まえる道具もないし。」


「何心配してんだ? フローラがいるじゃないか。」

 レオンがフローラを指さすと、アルがレオンを鋭くにらみつけた。

「おい、いくらなんでも、がたいのいい男が蛇を捕まえてくれって女の子を起こすつもりか?」


「俺はそうするつもりだけど。」

 レオンは笑った。

「俺にはできないから、仕方ないだろ?」


「分かったよ。それなら蛇が出たら、お前を起こして、お前がフローラに頼めばいいさ。」

「お前が直接頼めばいいだろ?」


「嫌だ!」

 アルはむっとした表情で答えた。



 男たちと同じように、疾風もフローラの姿を驚嘆の目で見ていた。夕食の材料となる蛇を捕まえ、捌き、調理する一連の作業をずっと見ていたが、フローラは微塵のためらいもなく、玉ねぎやジャガイモを扱うかのように、それらを迅速かつ自然にこなしていた。虫一匹すら殺せなさそうな、幼く可愛らしい外見からは、とても想像できない姿だった。


(私なんか蛇どころか、ゴキブリやクモすら捕まえられなくて、いつも母さんに頼んでたのに。)


 前世では真髄まで都会っ子だった自分が、馬になってからかなりタフになったと思っていたが、フローラのレベルは全く別次元だった。砂漠で水を見つけ、蛇を捕まえ調理するフローラの姿は、まさにサバイバル専門家そのものだった。


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