2. 砂漠で水探し
砂漠に入ってから3日が経った。
真昼の暑さを避けるため、早朝から出発した一行は、岩と乾いた地面しか見えない荒涼とした風景の中をひたすら進んでいた。暑く乾燥した天候のせいで喉が渇き、頻繁に水を求めるようになった。
「他のことはどうにかなりそうだけど、水が問題ですね。私たちだけならともかく、馬に飲ませるとなると、明日あたり水が足りなくなるかもしれません。」
マックスボーンは乾ききった風景を見渡し、水のことを心配した。
フローラはうなずいてから一行に言った。
「今日は早めに野営の準備をしましょう。水の問題も解決しないといけませんし。」
「水? もしかして水を作る魔法が使えるのか?」
アルが嬉しそうに聞いた。
「私はそんな魔法は使えません。アルはどうです?」
「俺もだめだな。俺は火と風属性が専門だから。水があれば、凍らせるくらいならできるけど。」
予想通りという顔をしたフローラは無言で馬から降り、周囲をあちこち歩き回りながら観察を始めた。
その間、レオンたちは適当な場所を見つけて野宿の準備を進めた。しばらくしてフローラが男たちを一か所に呼び集めた。
「みなさん、ここに来てください。」
4人が近づくと、フローラは地面を指さした。
「ここを掘ってください。」
乾ききってしおれた草のようなものが地面に貼り付いているだけで、レオンたちにはとても水が出るとは思えなかった。しかし、フローラは彼らの疑わしそうな反応を気にするなく、アイテム袋からスコップとツルハシを取り出した。
「アイテム袋に余裕がないって言ってたのに、こんなものまで持ってきたのか?」
アルが呆れたように言った。
「必要だから持ってきたのです。暗くなる前に、早く掘り始めてください。」
「こんなところで、本当に水が出るのか? 完全に乾いた土地にしか見えないけど。」
レオンが疑わしげに言った。他のメンバーも同じ考えで、渋々地面を見下ろしていた。
「掘れば出ます。こんなところで水が切れたら、大変なことになります。もうすぐ暗くなるので、早速始めてください。」
フローラに急かされ、男たちは仕方なくスコップとツルハシを手に取った。
「かなり深く掘る必要があります。その間、私は食材を探してきますね。」
フローラがその場を離れ、4人は地面を掘り始めた。
レオンとアルは、馬小屋の掃除くらいはしたことがあるが、地面を掘った経験はなく、キアンに至っては、スコップらしき道具を触ったことすらなかった。
マックスボーンは経験のない3人に一からやり方を教えながら、作業を進めなければならなかった。
「スコップはそんな持ち方じゃだめですよ。まず握り方が間違っています。そんな風にすると、手首を痛めます。」
「土をそこに捨てて、どうするんです? また穴の中に落ちてしまうじゃないですか。」
マックスボーンの指示のもと、一行は一生懸命地面を掘り進めていった。
「フローラさん、いくら掘っても水が出ないんですけど。これいつまで掘り続ければいいんですか?」
マックスボーンが悲しげな声でフローラを呼んだ。
フローラが向かうと、3人の男性がかなり深く掘られた穴の中から哀れな表情で見上げていた。穴の深さはすでに彼らの身長をはるかに超えていた。キアンは穴の外にいて、3人が掘り出した土を袋に詰めて引き上げる役割をしていた。
「見てください。まだ地面がこんなにカラカラに乾いてるんですよ。」
マックスボーンは、足元の土の塊を拾い上げて、手の中で砕いた。土の塊は彼の手の中で、まるで粉塵のようにさらさらと崩れた。
しかし、フローラは全く動揺しなかった。
「もう少し掘れば出ます。水が出るまで、掘り続けてください。」
冷静に言い放って背を向けるフローラに、アルが叫んだ。
「もう無理だよ!疲れてこれ以上できない!それにお腹も空いたし。ご飯を食べてから、やっちゃダメ?」
フローラは冷たく言い切った。
「ダメです。水が出たら、その時に食べてください。」
「この、魔女め!」
アルが叫ぶと、フローラは戻ってきて、穴を覗き込んだ。
「そもそも、こんなにたくさん水が必要になったのは、皆さんが馬を連れてくると言い張ったせいですよ。その責任は果たしてください。水が出るまでは、夕飯はなしです。」
そう言い残して、フローラは立ち去った。4人の男たちは暗い表情でお互いの顔を見合わせた。
「レオン、お前も何か言えよ。なんで黙ってるんだ?」
アルが八つ当たりのように、レオンに文句を言った。
「ごめん。なんていうか、迫力がありすぎてさ。」
「さっさと掘りましょう。このままだとご飯も食べられず、穴の中で生き埋めになりそうですよ。」
マックスボーンが半泣きになりながらスコップを手に取った。
「水だ!」
マックスボーンが叫んだ。
ある地点から地面が湿り始め、ついに水が湧き出し始めたのだ。穴の深さは、いつの間にか彼らの身長のほぼ2倍にも達し、アルが明かりとして灯した魔法の球体に頼っての作業だった。
「これで飯が食えるぞ!」
穴の中の男たちは互いに抱き合って踊った。彼らは急いで器や水筒を持ち出し、水を汲み上げた。
しかし、新たな問題が彼らを待ち受けていた。泥だらけで濁った水を目の前にして、泥まみれの男たちは落胆した。それはとても飲める状態ではなかったのだ。
「これ、馬にすら与えられませんね。」
マックスボーンがつぶやくと、フローラが水筒の前に立った。
「しばらく置いておけば、泥が自然に沈むけど、今は急ぎだから、浄化の祈りで清めますね。」
フローラが両手をきちんと合わせて祈ると、彼女から微かな光の粒が放たれ、水の上に降り注いだ。そして、濁った泥水が一瞬で澄んだ水に変わった。
光明神の司祭であることを今さら実感しながら、喉が渇いていた彼らは我先にと水を飲んだ。
「美味いな。」
レオンはきょとんとしていた。続いてアルが驚きの声を上げた。
「水が甘い!どうなってるんだ?」
「本当ですね。水だけで腹が満たされそうな感じです。」
マックスボーンは水の器に顔を突っ込みそうな勢いだった。
「お腹空いていますよね? 早く手を洗ってきてください。食事の準備ができましたよ。」
優しく声をかけて振り返るフローラの姿が、一瞬聖なるものに見えた。




