12. 野宿の味
レオンたちは、混沌の地に隣接する辺境の街、チェトラミに向かっていた。そこでクロードが紹介した回復術士と合流する予定だった。
クロードがかつて混沌の地を旅した際の仲間の回復術士の弟子で、光明神テナウェンの司祭でもある女性だという。信仰心の篤い司祭だというクロードの説明から、彼らの頭には敬虔で禁欲的な女性像が思い描かれていた。
チェトラミは、混沌の地に近い辺境にあるため、街に近づくにつれて人家がまばらになっていった。レオンたちと旅を始めて以来、初めての野宿を経験することになったキアンは、さまざまな新しい体験をした。エレンシアの3人、レオン、アル、マックスボーンは適当な場所を確保すると、すぐに水を探し、馬たちの喉を潤した後、刀を手に周囲を歩き回って、馬たちの餌になる草を集めた。
「放っておくと、馬は食べてはいけない草まで、勝手に食べちゃいます。もちろん、疾風はそんなことありませんけど。」
馬は放っておいても勝手に草を食べるものだと思っていたキアンは、マックスボーンの言葉を聞いて少し驚いた。
馬が食べる草について何も知らないキアンは、乾いた枝を集めて火を起こす役割を任された。
「乾いた枝って、こういうもののことかな?」
地面に落ちている枝や枯れた木を手当たり次第に集めていると、マクスボーンが手斧を持って近づいてきた。そしてキアンが拾った長い木を横に投げ捨て、地面に倒れている別の木を手際よく処理し始めた。
「ああいう木は、まだ生木に近いんです。あまり燃えないし、煙だけがたくさん出ます。こうして枯れて乾いた木が焚き火には適しているんですよ。」
慣れた手つきで細い枝を切り落とし、太い幹をポンポンと割っていくマクスボーンの動きを、キアンは集中して見つめていた。
「これから習います。教えてください。」
あまりに真剣な眼差しに、マクスボーンは面食らった。
「あ、まぁ。」
使えそうな木を選んで薪として扱いやすいように処理し、乾いた草を集めた上で火打ち石を力強く叩いて火を起こすところまで、マックスボーンが行うすべての作業を、キアンは一生懸命見て真似た。
馬の世話を終えた後、本格的な夕食の準備が始まった。メニューは干し肉と石のように硬いパン、そしてその日の食事当番であるレオンが作った謎の緑色の液体だった。草と少量の穀物粉を煮込んで混ぜたそれは、生草のような匂いをぷんぷん放っていた。
人間が食べるものかどうか疑いつつ、キアンがじっと眺めていると、隣の3人は平然とした顔で、硬いパンを小さくちぎってその草粥に混ぜ込んでいた。
キアンもそれに倣い、3人の後に続いてパンと一緒に草粥を口に運んだ。ひょっとして、と思ったが、やはり予想通りの味だった。生草の青臭さに少しの塩味、そしてパサパサしたパンの味が混ざり合った最悪のハーモニーだった。3人は無言で草粥をすくっては、ほとんど噛まずにごくごく飲み込んでいた。
キアンはこういうものなのだろうと思い、静かに深呼吸をして飲み込むように食べた。
「うわぁ~、本当にまずい。」
皿を空にしたアルが、眉間にしわを寄せて呟いた。
「毎回思うのですが、軍隊の食事が恋しくなる味ですね。」
マックスボーンが、褒めているのか、けなしているのか、わからない評価を口にした。
当事者のレオンは気にする様子もなく平然であった。
「食べられればいいんですよ。いざというときには馬にも食べさせられるから、一石二鳥じゃないですか。」
(まさか、馬の餌を兼ねていたのか?)
キアンは内心で驚愕したが、平然としているアルとマックスボーンの反応を見る限り、食事当番が変わったとしても状況は大きく変わらないだろうという悲しい予感がした。
「でも、干し肉を食べられるのは救いですね。」
靴底ほど硬い干し肉を歯でギシッと音を立てながら引き裂き、マックスボーンが言った。
ナイフで干し肉を切り分け、アルが警告を発した。
「マックスボーン、そんなことしてたら、そのうち歯が欠けますよ。」
「ご心配なく。うちの家系はみんな歯だけは丈夫なんです。」
マックスボーンは硬くてしぶとい干し肉をしっかりと噛み締めていた。
疾風は、男たちの粗末な食事の風景を見て、草が食べられてよかったと自らを慰めた。
今まで見てきた野宿では、いつもあんな感じだった。
(現代のキャンピングじゃないし、野宿での食事は、大抵あんなものらしいけれど、本当にあれでいいのかな。
混沌の地に入ったら、野宿が多いと聞いたが。まともな食事ができないせいで、みんな栄養失調で倒れたりするんじゃない?)
人に向き不向きがあるのは当たり前だが、レオンが全くできない分野が料理だった。混沌の地を旅することを決めてから、レイナがレオンに簡単な料理を教えてみたが、まるでだめだった。
アルとマックスボーンもその点はあまり変わりなく、キアンにも期待できないのは見えていた。
(回復術師じゃなくて、料理人を雇うべきだと思うよ。)
疾風は、男たちの食生活の問題を深刻に心配した。




