10. 少年騎士、仲間になる。
キアン・ミルランは無表情で寡黙な少年だった。初対面で自己紹介を交わした後、必要がなければほとんど口を開かず、静かに影のようにヒースのそばをうろついているだけだった。弟だという紹介がなければ、護衛の武士と勘違いするほどだった。
背丈はヒースより少し高く、細身の体型だったが、年齢に見合わない鍛え抜かれたたくましさを感じさせた。そのため、整った顔立ちにもかかわらず、上流階級で大事に育てられた坊っちゃんには見えなかった。
しかし、クロードの提案でレオンが剣術の稽古で対戦したキアンは、想像以上に向こう見ずで大胆だった。敵意は感じられなかったが、練習試合ではなく、命を懸けた戦闘のように隙間なく攻撃を仕掛けてきた。
(速くて遠慮のないスタイルだな。だけど。)
レオンは、腰の辺りに深く切り込んでくるキアンの木剣を弾き返しながら首を傾げた。
(怪我を恐れないのか?)
防御が甘いわけではなかった。それよりも、自分が負傷することを覚悟で、相手に致命傷を与えようとしているようだった。クロードは、決してこんな戦い方を教えたことがない。剣の扱い方はクロードの指導を受けたものに違いないが、何かが違っていた。
(危ないスタイルだな。このままじゃいつか大怪我をするぞ。それに、ただの稽古なのに、どうして、こんなに必死なんだ?)
確かクロードは軽い実力評価と言っていたが、それにしては、キアンの態度は闘志を超え、切迫感すら感じさせた。
「そこまでだ!」
二人の勝負がなかなか終わらないなか、クロードがそれを止めた。
剣を収めた二人は軽く会釈し、引き下がった。レオンは木剣の柄を握ったまま、刃を軽く一回転させると、側で待機していた従者に木剣を渡した。
その様子を見たクロードが微笑みながら言った。
「その癖は相変わらずだな。顔を隠しても、それでお前だってすぐ分かりそうだ。」
「体に染みついてしまったもので。」
レオンは少し照れ臭そうに答えた。
レオンに初めて剣術を教えていた頃、クロードはこの癖を気に入らなかった。剣をまともに扱う前に見栄ばかり張っていると思っていたのだ。
しかし、レイナから、それが実父ギデオンの癖であり、レオンが幼い頃から練習して身につけたものだと耳打ちされてからは、ギデオンを思い出すためのレオンなりのやり方だと受け入れ、それ以上何も言わなかった。
ヒースがレオンに尋ねた。
「模擬戦をしてみて、どう思いましたか?」
「他人を軽々しく評価できるレベルではないけど、俺の目にはかなり優れているように見えたよ。俺があの歳の頃は、ああはなれなかった。」
その大胆な攻撃パターンから見て、きっと実戦の経験があるような印象を受けた。ひょっとしたら、人を殺めたことがあるような、そんな実戦を。
「一つお願いがあります。キアンを今回の旅に同行させていただけませんか?」
思いがけない依頼に、レオンも驚いたが、キアンも初耳だったようで、困惑した表情でヒースを見た。
「修行のために混沌の地へ行きたいと言っています。一人で行かせるよりは、信頼できる仲間がいる方がいいかと。ご覧の通り、まだ未熟なところもありますが、十分に役割を果たせるはずです。」
レオンはすぐには答えられず、アルの顔を見た。アルも戸惑った様子だった。
「すみません。急なお願いをして。」
ヒースが謝ると、レオンが言った。
「アルと相談してみるよ。」
(えっ、なんで俺に振るの?)
アルは、レオンとキアンを交互に見てから頭を掻いた。今の構成で戦力が一人増えるのも悪くはないかもしれないと思った。
「俺は、まあ、レオンがいいなら構わないけど。」
すると、レオンはキアンに尋ねた。
「キアン、君はどう思う?」
キアンは少し躊躇してから、レオンに頭を下げた。
「ありがとうございます。」




