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畜生脱出〜後は異世界冒険  作者: 星を数える
Ⅱ ブレイツリー
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6. 美しい兄弟

 翌日の午後、クロードはお茶を飲もうと、庭園の片隅にある屋外テーブルにレオンとアルを読んだ。そこには初対面の二人の青年が先に来ていた。


「挨拶しなさい。この二人も俺の剣術弟子だ。レオンとは同門になるね。」

 二人の青年が席から立ち上がり、軽く頭を下げた。


「はじめまして。ヒース‧ミランです。」

「弟のキアン‧ミランです。」


 美しい兄弟だった。兄のヒースは、赤い髪に茶色の瞳をした中性的な感じの美少年だった。立襟の黒いシャツに髪の毛と同じ赤色のコートを着ている彼は、気高い鷹を思わせた。


 弟のキアンは、茶色の髪に黒い瞳、赤い唇が印象的な美少年で、青黒いシャツに黒いコートで身を包んでいた。


 アルは、ブレイツリーの有力貴族の中にこのような家柄があったのか、熱心に記憶を探ってみた。似たような名前はあるようだが、ミラン家はなかった。

「特に名のある家門の子息でもないのに、ペラミナス卿の弟子というのは剣の才能を見たのか?」


 ヒースは気さくで社交的な性格だった。外国に対して好奇心が多いようで、レオンとアルにエレンシアのことをあれこれ質問した。


  レオンの馬である疾風にも大きく関心を示し、それから一緒に馬小屋に行って疾風を見た。

「本当に素敵な馬ですね。少し触ってみてもいいですか?」


 むやみに手を伸ばさず、礼儀正しく了解を求めるヒースに、レオンは疾風の体を軽く叩いて言った。

「はい、結構です。」


 疾風は見知らぬ人が自分に手を出すことを許さなかったが、レオンが許せば受け入れた。

「ありがとうございます。気楽にお話しください。私たちにとっては兄貴じゃないですか。」

 疾風のたてがみに手を伸ばし、ヒースが言った。


「それでも、いいのかな?」

「もちろんです。」

 ヒースがほほ笑んだ。半円を描くきれいな目つき、滑らかに上がる口角を見て、レオンは一瞬目が離せなかった。 レオンは少し顔を赤らめ,急いで目をそらした。

「あ、それじゃあ…。」


*** ***


 疾風は自分のたてがみをなでるヒースの顔をじっと見つめた。

(妙な感じだけど。本当に男なの?)


 見かけはすらりとした体格の男だった。背丈も低くないし、声も適当な低音の中性的なトーンだった。


  しかし、動物の直感で感じ取られる感覚は、一般の男性とはどこか違っていた。

(それに、あまりにもきれいだよ。)


 前世の記憶からすると、BL作品の主人公、それも《受け》の方にぴったりのタイプだった。BL作品のファンではないが、ウェブ小説やマンガでいくつか読んだことはあった。


 しかし、本物のゲイのカップルに会ったことはなく、BL作品に登場する人物が実物ではどんな感じなのかはピンとこなかった。


 したがって、このヒースという美少年が普通の男と違う雰囲気であるのは、単なる気のせいかも知れないことだった。


(立襟に首が隠れて見えないな。そうでなくても、まだ少年っぽさが残っているから、喉ぼとけは目立たないかもしれない。どれどれ、手は。)


 ジャケットと同じ赤色の革手袋をしていた。細長い指。右手の中指には手袋の下に太い指輪をはめているようで、その部分だけが突き出て見えた。


「私の馬もエレンシア産です。素敵なやつですよ。それにしても、疾風は本当に素晴らしい馬ですね。」

 ヒースは感嘆の言葉を言い,疾風の体を優しくなでた。


「ヒースの馬はどこにいるの?」

 レオンが周囲を見回した。


「今日は馬車で来たので、ここにはいません。今度機会があったら、お見せします。あと何日かは、ここに泊まるご予定ですね?」


「そうしようかと思う。《混沌の地》に入る予定だから、その前にあれこれ準備も必要だし。」

「混沌の地ですか?」

 ヒースの表情が少し変わった。


「かなり危険なところだと聞いていますが。修練のために行かれるのですか?」

「必ずしもそうではない。立ち寄りたいところがあって。」


 レオンが言葉を惜しむことに気づいたヒースは、これ以上聞かずに話題を変えた。

「そこでは回復術師が必須だと聞きましたが、ピートランド卿は回復術はお上手ですか。」


「全然。」

 レオンはくすっと笑った。

「あいつは武力型の魔法使いだから、殴る専門だ。回復術師は別に探してみないと。」


「武力型の魔法使い?」

「そういうのがあるんだ。魔法使いのくせにやたら力強い。あ、口も達者だね。マックスボーンには少し劣るけど。」

 レオンの冗談にヒースは楽しそうに笑った。レオンの顔は再び赤くなった。


 先からどこか不自然に見えるレオンの姿に、疾風は変な感じが受けた。

(レオン、あんた、まさか。)


 BL作品もそれなりに面白く読むほうで、性的志向に偏見は持っていないが、疾風はレオンが無難な人生を営むことを願っていた。疾風の知る限り、こちらの世界も異性愛者が主流だった。


(まあ、どんな相手と恋するかは、レオンあんたの自由だけど、どうか無難な道を選んでほしいよ。)

 疾風はそんなことを考えながら二人を見た。


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