6…自分を披露する。
「この国で剣術の1番手もしくは2番手の方と、お手合わせさせていただきたいのですが……」
ミアが真剣に理由を説明すると、ルカが騎士団の練習場へ行くことを提案してくれた。
早速移動したので、ルカが歩きながらミアと訪ねた目的の話をし始めた。
「マルコ兄上が、婚約者をミアに変えると駄々をこね始めて。ミアは婚約者はいるの?」
「いえ、それが全く。話に上がったことがないです」
「そっか……」
ルカとジュゼは何となく察した。
きっと引く手あまたのミアを家族で守っているんだろう、特に父親と弟が。
さっきの手紙のお陰で、会ったこともないスフィル辺境伯家の想像が付いてしまった。
「兄上のほぼ決まりかけてた婚約者候補が、国としてはなかなかの好条件で。できれば決まって欲しいんだよね」
ため息をつきながら、ルカは困った顔をした。
「決定できないんですか?」
「一応、本人の同意がいるんだ。だから、はっきり言うと、ミアと婚約することを諦めさせて欲しいんだけど……」
ミアは少し考えて、何かを思い出したようだ。
「なるほど。でしたら、記録装置等で今からの手合わせを撮って、見ていただくのはどうでしょう? そこで、私は自分よりも弱い人とは結婚しないと言えば良いかと」
そして、ミアは苦笑いしながら付け足した。
「外で求婚されたら、こう言いなさいと教えられていました。今まで機会がなかったので忘れてましたけど」
「そっか……」
スフィル辺境伯家についても突っ込みたいところだが。
そこまで言うことができるなんて、相当な実力なんだろうと、ルカとジュゼはそちらの方が気になってしまった。
◇
「では、よろしくお願い致します」
ルカが事情を説明すると、1番手の騎士は不在のため2番手の騎士がミアと手合わせすることになった。
アルカル国の練習用の切れない剣を渡されたミアは、目を丸くして「これも質が良いわ」と呟いた。
第一皇子のマルコに突き付けられた剣も、質の良いアムル山のミスリルだったし。
女性用の乗馬服を借りて着ているミアは、動きながら剣を振り回し、服や剣の癖を確かめ始めた。
奇麗なご令嬢が剣を振り回しているミスマッチ感がすごい。
しかし、その様が、仕草が、どれをとっても洗練されていて、その場に居る者たちは皆見入っていた。
ミアと騎士が剣を交わし始めてからは、見入るというよりは、全員が度肝を抜かれてただ見ている状況だ。
騎士は力も強いし押し負けることはないが、ミアは太刀筋が美しく、つい目で追ってしまう。
そして隙がない。
力では騎士の方が勝ちだが、それを上手くいなして即反撃をする。ミアの方が戦い慣れしているように見えるのだ。
しばらくの間、剣戟が響いた。
「……ダメだ。参りました。勝てる気がしません」
騎士が剣を下ろし、お辞儀をした。
ミアも剣を止めて、同じ様に挨拶をした。
周りからは拍手があがっている。
強いことを証明できて満足そうなミアは、記録装置を持っているルカの方を向いて、笑顔になった。
ルカは急いで記録を止めた。
「何なんだ今のはっ。逆効果だろう?!」
ジュゼは隣でくすくす笑って、ミアを見ている。
「ご挨拶がおくれました、ミア・マウル・スフィルと申します。弟の実力は私と同じ若しくはそれ以上。父は私との手合わせの時に、16才の私をまだ子ども扱いしてきます」
ミアの発言で、その場が静まり返っている。
「お分かりいただけましたか? 敵にしてはならない相手だと。もし、スフィル辺境伯家から挑発されることがあっても、絶対に受けないで下さい。私が何とかしますから……ご迷惑をおかけします」
スカートではないし髪も乱れているけれど、ミアはスカートがある体でカーテシーをして、騎士団を絶句させてしまった。
ルカがあきれたように見て呟いた。
「ミアは自分の価値をきちんと知って出し惜しみするべきだね」
ジュゼが奇麗な顔で微笑した。