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閑話休題19〜愛の言葉

「なっな、何?! 待って。どうしたのっ」


 ミアが一生懸命胸元を押さえながら、後退している。



 明日は早くからチョークの公務があるため、昨日から二夜連続でアーティが寝室に来たのだが。

 ミアの鎖骨付近に何やら見えてしまい、アーティがミアの服を引っ張って中をのぞいている。


「いつ?! 誰?!」


 アーティに詰め寄られて、壁に背をつけたミアは焦っている。


「えっ」


「昨日無かった跡が付いてる!!」





「ミア! どこに行くの?」


 その日の昼に、王家専用の図書室に行こうとしていたミアがチョークに呼び止められた。


「調べたいことがあって。王家の図書室へ行くの」


「僕ちょうど休憩時間だから、一緒に行こうかな」


 そう言うと、ミアの手をとりチョークはご機嫌に歩き始めた。


 これはかなり嬉しいな。

 今日はもう会えないかと思っていたのに。



 ミアが探している本を渡して、チョークはミアを抱きかかえて椅子に向かった。


「公務があるから、今夜会えないし」


 チョークはミアを膝の上に乗せて抱きしめた。


「気にしないで読んで」


「それは……難しいわ」



 ふっと笑って、チョークはミアの耳元でエスカー語でささやいた。



「ミア、愛してるよ。ミアを想わない日はない」



 突然の告白に、ミアは嬉しそうに困った顔で笑った。

 チョークの大好きな笑い顔だ。



「私も愛してるわ」



 ミアは母国語のエスカー語で愛に応えた。


 チョークはミアの本をそっと取って机に置くと、魔法で図書室の扉の鍵を閉めた。


「ミア、少しだけ」


 チョークは優しく抱きしめて、ミアにキスをした。


 ミアに良いか聞くと昼間はダメだと言われることが分かってきたので、最近チョークは聞かないことにしている。





 詰め寄られたミアは、アーティの視線の先にある自分の胸元を見て、目を大きくした。

 そしてアーティに目線を戻したが、ついついそらして斜め下を見てしまった。


「ジュゼ?!」


「違うわ!!」


 ミアはアーティの目を見てはっきりと言った。


 ……ということは。


「チョークか。昼間するなんて」


「しっ、してないわ。本当よ」


 アーティは「ふーん」と納得してなさそうに返事をして、ソファに寝転んでしまった。


「アーティ」



 何度呼んでも全く向いてくれないアーティを、ミアは座り込んで力無く突いている。

 チョークから聞いた "もしいつかアーティがふて腐れてしまった時の対処法" を試してみることにした。


 少しズルいけど……



「アーティ、愛しているわ」



 アーティは勢いよく起き上がり、目を大きくしてミアを見た。



「エスカー語……」



 チョークが先に聞いた、ミアの母国語での愛の言葉。

 悔しくて言えないでいたけれど、アーティが心の底から欲しがっている言葉だった。



 絶対チョークが吹き込んだ。



 分かってはいるのに、それが悔しいのに、アーティは嬉しくて嬉しくて隠しきれない自分をどうしたら良いのか分からない。



「ア、アーティ?!」



 次は、ミアが驚いている。


 涙目で怒るアーティはよく見るし、それがミアは可愛くてたまらないと思うのだけど。


 初めて見るのだ。

 アーティが泣いているのを。


「ご、ごめんなさい……嫌だった?」



 アーティは首を振って、ミアにやっと聞き取れるくらいの声でポツリポツリとゆっくり言葉を紡いでいく。


「……俺たちが、初めてミアに出会った時」




"「やだっ!! 昨日の大雨に濡れたの?!」"




「ミアは、当たり前だけど、エスカー語を話してたんだ」


「ミアも、声も、言葉の響きも美しくて、その上知らない言葉で」


「この世のものと思えなかったから、俺本当に死んだと思ったんだ」


 ははっと笑って、アーティは懐かしむような顔をしてミアを見つめた。


「その後にスフィル家で過ごした日々が、本当に本当に幸せすぎて」


「だから、いつかスフィル語で聞きたかった」


「ミアが言ってくれたのはチョークのせいだって分かってるけど」


「やばいくらい嬉しすぎて」


「あ、ミアは言ったことを後悔しなくて良いよ。嬉しいから、良い」


 それでも申し訳なさそうにするミアを見て、アーティは優しく笑って、ミアが気にしないように条件を出した。


「今日は寝るまでずっと、エスカー語で話してくれたら許す」


 ミアはしょんぼりしながらうなずいて、まだ落ちてくるアーティの涙を優しく手で拭いた。


 美人が泣くと、涙は奇麗な装飾になるのね。


「アーティ、大好きよ」


 ミアは出会った時のように、ふわりとアーティを抱きしめた。






 翌朝、目が覚めたアーティに、ミアはエスカー語でこう言うと決めていた。


 ごまかすためでもなく、機嫌をとるためでもなく、自分の気持ちをそのまま。


 ミアはふわりと笑ってアーティの目を見た。




「アーティ、おはよう。心から、愛してるわ」




 まさか、またアーティを泣かすことになるとは思いもせず。



 これからも、愛を伝えよう。


 お互いを見失わないように。


 誤解をしないように。


 あなたを愛しているから。


これにてSSも完了です。

お付き合い下さり、ありがとうございました!

五体投地で御礼申し上げます。

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