閑話休題12〜2人だけの内緒(アーティ)
「やっぱり覚えてたんだな」
「はっ、いや、そんな気がするかなって」
ミアはアーティと勉強後に楽しくお茶をしていたはずなのに。
以前スフィルでのキスの件で、ミアが眠ってしまい覚えていない振りをしていたのを、アーティの誘導尋問にミアがまんまと引っ掛かってしまったところだ。
「なのに俺らを突き放したんだな」
アーティがいじけながら頬杖をついてミアから視線を外さない。
「ちっ、違うわ。本当に分からなかったのよ。時間が欲しかったの。ジュゼにも言わ、れ、て」
ミアは余計なことを言ってしまったのに気付いてしまい、視線をそっとアーティからティーカップへ移した。
「ジュゼが何て?」
いじけていたはずのアーティが本気で怒りそうになっているのだが。
「いえ、間違えました」
目を合わせないミアを、絶対信じないという顔でアーティが見据えている。
蛇に睨まれた蛙は、きっとこんな気分なんだろうと思いながらミアは小さくなって目を閉じていく。
「あーあ、ジュゼで思い出した。俺の奥さん何であんな事させたのかなぁ」
アーティはまだ婚約もしていないのに、両想いだと知った日からミアを奥さん扱いしてくる。
いつか話題に出されると思ってはいた事だけれど、こんなに早く言われるのは想定外で、ミアは話題を変えたかった。
「まっ、まだ奥さんじゃない、わ」
とりあえず話題は変えられなかったようだ。アーティからは返事が無い。
墓穴とはこういうことなのだろうと、ミアは顔を手で覆った。
でも、いつか説明をしなければと思っていたので、ミアは弱々しくアーティの方を向いた。
目は合わせられないけれど。
「私、2人の皇太子即位式の前に、ジュゼに、想いを返せないと伝えたと、その時に誓約のようなことをしたと言ったでしょ」
アーティはまだ黙ってミアを見ている。
「お、思い出が欲しいと言われて」
「で、あんな事を?」
やっと口を開いたアーティだけれど、ミアを追い詰めていく。
「違うわ! でっで、出ている肌に、キスをさせて欲しいと言われて。いつも服を着ているから軽く返事をしてしまって」
「で、何でああなったの」
「バッと、服を、こう、む、むかれてしまって、肌を、出されて、しまって」
身振り手振りで説明するミアだけれど、余計に焦ってしまい、ドツボにはまっているとしか思えなくなってきた。
「へえ」
「胸元を隠すために、手で押さえてたら、あんなことに」
「見せて」
「みっ?!」
アーティは立ち上がって机の上からミアの服を無理やり引っ張ってのぞいてしまった。
見る見る黒い何かがアーティから漏れ出している。
「隠してたような跡の付き方じゃない! それに何だよ、この数!!」
アーティは激怒を通り越して涙目になっている。
何だか幼い頃の怒り方になっていて、そんなアーティをミアは可愛いと思ってしまっている。
「ちゃんと隠してた、わっ」
アーティはミアを抱きかかえて、ソファにふわりと一緒に座った。
「ちゃんと見せて」
「待っ……」
ミアの返事も聞かず服をはだけさせ、アーティはマジマジとミアを見ている。
胸元を必死に隠しているミアだけれど、羞恥で顔も体も真っ赤になってきた。
「アーティ、ふ、服を戻して」
「俺にもさせて」
ミアが更に真っ赤になったのを確認して、また返事も待たずアーティはミアの肌に顔を埋め始めた。
「手が邪魔」
「それはっ、結婚するまで、ダメっ、でしょっっ」
ミアの胸元から顔を上げて、アーティがふて腐れてミアを見た。
「もうしてるようなもんだろ」
「してないわっ」
◇
ご機嫌なアーティと、アーティを無言でパシパシ叩くミアが廊下を歩いている。
アーティは嬉しそうにミアの手を受け止めながら、謝っている。
それがとても仲睦まじく見えて、通りすがる従者たちは笑顔でお辞儀をして行く。
アーティが我慢してくれたかどうかは、ミアとアーティだけの内緒のお話。




