21…そして恐怖する。
突然のことだった。
一瞬、光が辺境伯邸の庭から敵のいる方の山へ走ったと思ったら、
パンッ
軽い発砲音が遅れて届いてきた。
ドォォォオン
それとほぼ同時に、山の方で不釣合いな凄まじい轟音がしたので、敵も味方も山へ視線を移すしかなくなった。
「え、山が……」
「でかい山が1つ崩れてる」
何が起こったのか誰も分からない。
どちらがしたのかの判断もつかないので、その場が静まり返った。
「今のはわざと、あなた方から外しました」
声の方へ皆が振り返る。
ミアとカイが目を見開いている。
少し遠くにある庭の彫刻の台座に、
彫刻の代わりに立って、
拳銃のような物を片手に構えている人物がいる。
スフィル辺境伯夫人だ。
スフィル辺境伯夫人は普段のように、にっこりと笑った。
「敵の皆さん、さっさと、こちらにいらっしゃい? 自ら来るなら、痛い目には遭わせません……きっと」
は?!?!
皆、目が点になっている。
「ふふ、わたくしは、遠距離タイプなの」
スフィル辺境伯夫人はにこやかに全員予想もしなかった言葉を次々に発した。
ミアとカイは開いた口が塞がらず、涙目になって真っ青になっている。
皆が喋れないのを確認して、スフィル辺境伯夫人は話し続けた。
「これは弾倉がなくて、魔力で撃つのよ。細かい制御が難しいから、使えるのは、わたくしくらいなの」
スフィル辺境伯夫人は拳銃のような物を指にかけたままクルクルと回しながらも、普段通りに話している。
「あ、近くには来ないでね。どこを撃っても致命傷になってしまうから」
もう、敵も味方も真っ青だ。
「さあ、こちらに移動して」
スフィル辺境伯夫人が、拳銃のような物で指し示した。
ぞろぞろと自ら捕縛される者が出てきた。
それでも、スフィル辺境伯夫人には満足のいかない人数らしく、笑顔に青筋が見えなくもない。
「わたくし、怒っているのよ。大切な夫の腕を落とされて!!」
パンッ
イライラを発散するかのように、スフィル辺境伯夫人は空へ向かって撃つ。
どこまで飛んでいくのかわからないそれは、天高く見えなくなっていった。
「どうせ全員捕縛なんだから、さっさと来いと言っているの。ああ、聞こえない耳は必要ないわよね。撃ち落としても良いかしら」
パンッ
誰かの悲鳴が上がった。
耳を落とされたのかもしれない。
「さあ、とっとと、いらっしゃい?」
時折、スフィル辺境伯夫人は迷いなく発砲しながら、どんどん人を捕縛させていく。
「あら、逃げてはダメよ」
パンッ
そこからはスフィル辺境伯夫人の独壇場だった。
"今は父君も素晴らしいが、凄いのは母君だな"
いつかのアルカル国王の言葉を、皆が思い出していた。
ミアとカイは真っ青になって抱き合い、ガタガタ震えている。
こんな母親の姿を見るのは、どうやら初めてらしい。
「あの2人震えてて可愛いけど、ちょっと妬けちゃうね」
こんな空気の中、ジュゼが飄々と言う。
チョークと一緒に座り込んでいるアーティが、そんなジュゼをにらんでいる。
「ママ、強かったんだね」
チョークが感心しながら小声で言った。
隣でアーティがうなずいて同意している。
まだジュゼをにらみながら。
そう、スフィル辺境伯家で最も強くて恐いのは、スフィル辺境伯夫人なのだ。
パンッ
銃声は捕縛が完了するまで鳴り続いた。




