19…双子は暴露し、
誰かが走って来ている。
カイは、知っているような、知らないような、そんな不思議な足音に耳を澄ましている。
バンッ
ノック無しで扉が勢いよく開いた。
その部屋にいたカイとジュゼは振り返り、2人とも目を見開いた。
「でかっ?! あ、もう俺より年上か。もしかして姉上と同じ年か?」
勢いよく入って来たのは、いつの間にか17才になっていたアーティとチョークだった。
「たぶんそう。そんな事より、聞いてほしいことがあるんだ」
アーティもチョークも余程何かを言いたくて急いできたらしく、息を切らせながらも弾け散るかのように話始めた。
「ああっ、何でこんなに猫が長かったんだ! やっと言える!! クソッ、何がお兄様だ。兄様、あいつ、俺らに何て言ったと思う?!」
年上のアーティに兄様と呼ばれた事に違和感しかないカイだが、今はそれどころではなさそうだ。
「あいつって、タツミ兄のことか?」
今度は少し冷静なチョークが話始めた。
「そうだよ! ずーっと言いたくて、でも言えなくて、3ヶ月間、僕たち本当にイライラしてたんだ」
2人から続く言葉を聞いて、カイは信じられないと真っ青になっていった。
◇
アーティとチョークが揃ってタツミを引っ掻く直前の話。
双子の子猫たちに向かって指を伸ばしたタツミは話し始めた。
「僕は小さな生き物が嫌いなんだ。だって弱くて可愛い振りしてミアに近付いて、ミアに守られようとするだろ?」
周りに見えない角度でタツミは双子の子猫たちの額を指で強く弾いた。
「ギャッ」と痛がり、怒りの表情で見てくる子猫たちを見下ろして、タツミはふっと鼻で笑う。
「ああ、でも良いか。どうせあと少しで僕のものだ。ミアも、スフィルも……ああ、楽しみだ」
先に手を出したのはチョークだった。
それに続いてアーティも向かっていった。
◇
「あとは、皆がご存知の通りだよ」
思い出して怒りが収まらないアーティの代わりに、チョークが話を終わらせた。
カイが真っ青になりながらも納得したようにうなずいている。
「そうか……そーだ。姉上が連れてかれんのは、いつもタツミ兄といた時だった!! タツミ兄は味方だと思い込んでて警戒してなかったから気付かなかった。クソッ」
「ねえ、ジュゼ兄上はミアを感知できないの?」
「何度か試してるんだけどね。感知の範囲外にいるのか、それ相応の魔法壁の中にいるのか。お手上げだ」
カイが、手を上げて大丈夫だと言っている。
「これからタツミ兄ならって所を探せば良い。姉上が目的の1つなら早く探さねぇと。とりあえず、父上に報告してくる」
コンコン
ガチャ
カイとジュゼ、アーティとチョークが同時に扉の方へ振り返った。
「その必要は無い、大丈夫だ」
青ざめたような、お怒りのような静かなスフィル辺境伯が立っている。
「父上!」
「今来たところで少し聞こえた……実は、昨年だったか、タツミと従兄弟のメリノ子爵が来て、ミアとタツミを婚約させて欲しいと言ってきてな」
「はぁぁぁあ? 俺それ聞いてないんっすけど」
カイがスフィル辺境伯ににじり寄っている。
「お前は事を大きくするだろう。まあ、それは後でだ。勿論、断った。その後に紋章入りの求婚の書状もきたんだが、それも断った」
カイが小声で「しつけぇな」と言う様子がいつもと違いすぎて、もう誰も近寄れない。
とりあえずタツミの命は無いかもしれないと、その場にいる者たちは全員思った。
「指示者はタツミだろうが、あんな小僧だけであの大人数を動かしたり画策したりは無理だ。メリノ子爵も関わっているだろう。狙いはミアもだが、スフィル家かもしれん」
「潰しましょう」
「ああ勿論だが、まずはミアを探そう。従兄弟が一枚噛んでいるなら、思い当たる場所がいくつかある。カイはタツミがいそうな所を探してくれ」
「分かった」
スフィル辺境伯がアーティとチョーク、ジュゼの方へ向いた。
「皇子殿下方は安全にされて下さい。何かあっては外交問題になりますから」
何か言いたそうなアーティをジュゼが抑えて、いつも通りの奇麗な顔でスフィル辺境伯の方を向いた。
「そうですね、分かりました」
ジュゼの返事を聞いたスフィル辺境伯はお辞儀をして、辺境伯の騎士団へ指示を出すために急ぎ足で部屋を出ていった。
それを確認したジュゼが、カイに振り返った。
「カイ、最初はどこから? 早く行こう」




