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16…その理由を

 待って、まだもう少し寝ていたいの。


 朝と晩はなかなか肌寒くなってきて、そろそろ冬がやって来ると肌で感じられる季節になった。

 なので、今ミアは布団の中で暖かさに包まれて、まだ出たくないのだ。


「んふふっ、待って、あははっ、くすぐった……」


 薄く目を開けたら、ミアと身丈がそう変わらない少年のチョークが首元に顔を埋めて寝ている。


 一気に目が覚めるミア。



「え?! ちょっ、チョーク?!」



 待って待って、今、噛ん?! 舐めっ?!

 いやいや、待って、もし寝ている間に人になってたとしたら、服は……?!



「あ、おはよう、ミア」


 起き上がろうとしたチョークの裸の上半身が見えて、目が大きくなったミアは焦って手で制止した。


「動かないで! ダメっ!! 布団を掛けてて!! お願いっ」


 布団をチョークの頭にも掛かるように、ミアはえいやと投げ付けるようにして、扉へ向かって走り、外に待機しているであろうハルノに服をお願いした。



「出てきちゃダメよ?!」



 ミアは扉の方へ向いたままチョークに叫んだ。


「ははっ、ごめんね。夜までは確かに猫だったんだけど」


 チョークはミアが焦っているのを見て状況を把握して、ケラケラ笑っている。


 ミアはチョークの声を聞いて、首元を噛まれたり舐められていた感覚を思い出してしまい、真っ赤な顔を手で覆いながらチョークに背を向けて扉にくっついてハルノを待った。






「もうこんなに大きくなったの?!」


 今しがたアーティもやって来て、久しぶりにアーティとチョークの人の姿を見たミアは開いた口が塞がらない。


 8ヶ月を超えたアーティとチョークは、12才くらいの少年になっていた。

 兄たちに似て美形でやはり背も高く、13才のカイよりは低いけれど、もうミアと変わらないくらいになっている。



 それでも朝の挨拶にアーティとチョークはミアにキスをしようとしてくる。


「猫の時は、口でなくて鼻と鼻だった気がするのだけど」


 動揺したミアがそう言うと、アーティとチョークはものすごい勢いで「口だった!」と反論してきた。


 イケメンで奇麗な顔のアーティとチョークに、やはりミアは緊張してしまう。


 理由は分からないけれど、キスはしてはダメだということだけは何かしらの勘で分かったので、ミアは止めなければと焦燥感に駆られた。

 ミアは何だか恐くなって、その理由を考えるのを止めてしまったけれど。



「もう人の時はしない方が良いと思うの」


 先にキスをしようとしたアーティの口を手で押さえて、ミアは拒んでみた。


 口を押さえられて目を大きくしたアーティ、その後ろにいるチョークもすごい顔をしている。



 その後はアーティもチョークもこの世の終わりの様な顔をして全く浮上しなかったらしい。


 事情は分からないが原因はどうやらミアらしいと予想したカイから「どうにかして」と苦情がやってきた。


 詳しく知られたら知られたで、カイが大変なことになりそうだが……



コンコン



「アーティ?」


 ミアはアーティの休憩中にアーティの部屋を訪れた。

 まだまだ低空飛行……というか離陸もしてない様な状態でアーティはソファに座っている。

 そんなアーティの隣に座って、ミアはそっと頬にキスをした。


「あの、頬でも良い?」


 自分から家族以外にかしこまってキスするのは初めてかもしれないミアが、精一杯頑張って、恥ずかしそうにそう言った。


 アーティは「嫌だ」と小さく小さく呟いた。


「何?」


 アーティの言葉が聞き取れなかったミアは、心配そうにアーティを覗き込んでいる。



 突然アーティはミアの膝に乗っかかって、ミアをソファに押し付けて口に噛み付くようにキスをし始めた。


「んっ」


 ミアもなかなかの力を込めて押し返したが、アーティも負けずにミアの手を握ってソファに押し付けた。

 アーティが口を離した瞬間、ミアが必死に言葉を発した。


「アーティ! 待って!」


 アーティは手荒にミアを開放して見据えた。


「何で?! ジュゼ兄上は良いのに?」


「えっ?!」


 そういえば以前アーティたちの前でジュゼにキスをされたのを思い出して、ミアは恥ずかしくて真っ赤になってしまった。


「……」


 ミアの反応を見て、アーティは傷付いた顔をしながらミアを見据えた。



「何でっ、何で今の俺たちはミアとこんなに年が離れてるんだ!」



「アーティ、どうしたの?」


 ミアはいつもと違うアーティの様子が心配でオロオロしながら、アーティの背中を擦ってみた。



「ああダメだ、待てない。その間に、ミアはジュゼのものになるだろ」


 泣きそうな顔をして責めるように言ってくるアーティに、ミアはどう返したら良いかわからず、言葉が出せずに戸惑っている。


 そんなミアを見て、アーティは悔しそうにうつむいて顔を上げられなくなってしまった。



「ミア、出てって。ごめん、今の自分は嫌だ。ミアに見せたくない」


 アーティはそこからは何も言わずミアを扉まで連れて行き、部屋の外へ押し出して扉を閉めた。



バンッ



 扉の取手を触ろうとしたけれど、開ける勇気が出ず、ミアはただ扉の奥にいるのであろうアーティに視線をやった。



 気になってやって来たカイに見つかるまで、ミアは扉の前で立ち尽くしていた。





 部屋の中は荒れていた。


 アーティは今は思春期の12才、すぐに13才がやってくる。久しぶりに人になってアーティもチョークも精神がかなり不安定だ。


 魔力が制御できず、風が吹き荒れて部屋が目茶苦茶になっている。


「今だったら、ジュゼ兄上に取られてしまう。俺たちから取れる時に取ろうとしてる」


 目の前でジュゼがミアにキスをした光景がアーティの脳裏に焼き付いて離れない。


 アーティはしばらくの間、ミアがいたソファに頭を抱えながらうずくまっていた。



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