2.性なる魔玩具ルカ‐0721号!
どれくらい時間が過ぎたのかは分からない。
ふと目が覚めると、俺は、何故か全裸でベッドの上に寝かされていた。
部屋には、他に誰もいない。
身体を起こすと、何故か胸には見事な双丘が備わっていた。
その割にウエストは細く、手足がスラリと長い。
これって、大人の女性の身体か?
たしかに性別については、男性だとは言われていなかったけど。
あと、転生と言っても、赤ん坊からやり直すわけじゃないのか。
それと、よく見ると腕にも脚にも体毛が無い。
脇にも陰部にも毛が無い。
剃った形跡もない。
「もしかして?」
俺は、自分の股間を触り、臭いを嗅いだ。
普通なら、それなりに臭うだろう。
しかし、無臭だった。
「これって、そう言う意味かよ!」
あの時、女神様は、
「先程の『バラバラにされても元通りくっついて生き返る身体』が、まさに、そう言ったことを起こさせない仕様なのですが……」
と言っていた。
俺が初体験の後、女性への興味が一切失せた大きな原因は、体毛への違和感と陰部の臭いだった。
でも、この身体は、それらが無い。
つまり、俺が三次元の性に興味が失せたのと同じことを、相手の男にさせないのが、この身体と言うことだ。
多分、あの時、女神様が煮え切らない表情をしていたのは、
「その場合、女性の身体になりますが、イイんですか?」
って言いたかったのだろう。
ハッキリ言ってくれれば良かったのに!
しかし、この女性の身体は、本当にバラバラにされても死なないのか?
検証するのは怖いな。
ふと、俺は部屋の片隅に姿見があるのを見つけた。
今の俺の身体が、どうなっているのかを確認しようと、俺は姿見の前に立った。
「マジで、ある意味、スゲエ」
鏡に映した自分を見て、改めて、その美貌を実感した。
スラリと長い手足。
豊満な胸。
そのくせ、細いウエスト。
細くて、やや長い首に小顔。
顔も、目が大きくて綺麗に作られていた。
どう見ても二次元から飛び出して来た超美女だ。
さすがに、この容姿で『オレっ娘』は似合わないな。
ワシと呼ぶのはもっと似合わない。
それ以前に、そもそも、『ワシっ娘』なんているのか?
……一応いたか。
ここは、ちょっと痛いけど『ボクっ娘』で手を打つか。
巨乳のボクっ娘キャラがいないわけじゃないし。
こんなことを考えていると、突然、部屋の扉が開き、
「何やら音がすると思ったら、目覚めたのか!」
と言いながら、アラサー風の男が部屋に入って来た。
こっちは全裸女性なのに、何の遠慮も無い顔をしていた。
「アンタ誰?」
「我か? 我は魔導師エロス。性なる魔玩具の研究では、この世界の第一人者と呼ばれる男だ!」
そう言えば、『我』を忘れていたな。
でも、『ワレっ娘』は、マジで聞いたことが無い。
もっとも、それだと腹筋が割れている娘みたいに聞こえるけど。
それはさておき、この男は、大人のオモチャの開発者ってことだ。
第一人者と言うのは自称かも知れないけど。
ただ、こう言われて、俺……いや、ボクは、非常に嫌な予感がした。
そして、それは現実となる。
「まさか、ボクは、お前が作ったとか言わないよね?」
「いや、お前は我が精魂込めて作り上げた聖女シリーズの最高傑作、ルカ‐0721号だ! 史上最高の性魔玩具だ!」
魔玩具と言うからには、恐らく、魔力で動く人形と言うことなんだろう。
しかも、性魔玩具。
つまりボクは、魔力で動く自律型のダッチワ〇フってことだ。
しかも、ご丁寧に『0721号(Go)』とはね。
ナンバリングで『オ〇ニーする』ってモノが勃って……じゃなくて、物語っているよ。
それに、どう考えても『聖女』と言うより『性女』だろう。
Hの才能が無いボクが、まさか、男性用の性処理道具に生まれ変わるとはね。
最悪な転生だ。
「やっぱりか」
「お前は、この世界の全ての男性の夢と希望、そして理想の容姿を兼ね備えたハイパーな存在だ。しかも最強の癒しの能力を持つ。誇りに思うべきだぞ!」
ここで言う癒しとは、どうせHのことを意味するんだろう。
多分、『癒し』よりも『イヤラシ』の方が合ってそうな身体だよ!
ただ、そうエロスに言われた直後、ボクの目の前でエロスのステータス画面が開いた。
良く分からないけど、他人のステータス画面が覗き見出来るらしい。
それと同時に、何やら合成音のような声が聞こえて来た。
一応、女性っぽい声だ。
ただ、これはエロスには聞こえていないようだ。
ボクの頭の中限定ってことらしい。
前世で読んだ異世界モノ作品の中に、自分以外の何かが自分の体内に同時に宿っていて会話ができるってパターンがあった。
どうやらボクも、それに近い輩みたいだ。
この合成音と、会話まで出来るかどうかは分からないけど……。
『(取扱説明書)ルカ‐0721号は、ステータス覗き見スキルにより相手の前世の情報を得ることが可能です。これにより、前世からの性に関する業を理解し、相手を心から満足させます』
性処理人形故の特殊能力と言うことか。
正直、与えられても余り嬉しくない力だ。
ただ、聖女シリーズと言うことは、ボクみたいなのを今までもたくさん作っているってことか?
ボクが、そう思うと、再び合成音のような声が聞こえて来た。
『(取扱説明書)ルカ‐0721号は、聖女シリーズの第一号です。ちなみに、他のシリーズは、まだ存在しません。等身大自律型魔玩具は、ルカ‐0721号が、トリフィオフィルム世界では初の作品となります』
それって、まだ、ボクしかいねえってことだろ!
だったら、一体だけじゃん!
まだ、シリーズじゃねえじゃねえか!
言葉は正しく使ってくれ!
ふと、ボクは、エロスのステータス画面の中に、『前世の業』と書かれたところがあるのに気が付いた。
前世からの性に関する業を理解するのに必要ってことだろう。
その直後、そのページが勝手に開いたんだけど、そこには次のことが書かれていた。
勿論、さっきと同じ合成音のような声が、ボクの頭の中で、自動で読み上げてくれた。
『(前世の業)前世のエロスは、ブルバレンと呼ばれる異世界で性魔玩具の研究及び発明を行っており、その道にかけては、ブルバレン世界の第一人者とも呼ばれていた』
つまり、ボクみたいな性魔玩具を前世から作り続けていたってことか。
前世の分も合わせれば、一応、シリーズとしては成立するのかな?
それにしても、暇なヤツだ。
多分、前世でエロスが生きていた世界は、魔法が使えるんだろう。
そうでなければ、魔玩具なんて成立しないだろうからね。
でも、性魔玩具作りの道になんか進まずに、マジメに普通の魔導士とかを目指せば、前世でも今世でも、かなり出世できたんじゃないか?
これだけ完成度の高い自立型人形を作れるくらいだ。
もの凄い能力の持ち主であることだけは間違いない。
完全に能力のムダ遣いをしているって思ったよ。
「じゃあ、早速だが、試しに我が……」
エロスが服を脱ぎ始めた。
製作者として、ボクの使用感を確認しようってことか?
ただ、ボクは、身体は魔力で動く女性型ダッチ〇イフでも、中身は男だ!
絶対にヤラれてなるものか!
そう思った時、またもやボクの頭の中で、合成音のような声が取扱説明書の記載内容を読み上げてくれた。
『(取扱説明書)ルカ‐0721号は、効率的にHのデリバリーに行けるよう、転移魔法が使えます。一回での最大移動距離は10キロメートルです』
『(取扱説明書)ルカ‐0721号は、連続転移が可能です。これにより、相手が遠いところにいても、瞬時に現地へと到着することが可能です。なお、連続転移の際にクールタイムを必要としません』
『(取扱説明書)ルカ‐0721号は、マップ機能が内蔵されており、ストリートビュー機能も付いております。これにより、今まで行ったことが無い場所もイメージできるため、最大移動距離以内であれば、転移先の制限はありません』
転移魔法が使えるのは有り難い。
使える理由は最低だけど……。
多分、ベッド横のサイドテーブルの上に置かれている黒い物体は、ボクの着替えだろう。
ボクは、それを手にすると、転移魔法を発動した。
「転移!」
悪いけど、エロスから逃げたんだ。
男性相手にヤりたくないんでね。
女性が相手でも三次元は嫌だけど。
一応、最大距離である10キロを転移したけど……、出たところは森……と言うか、ジャングルの中だった。
実は、どの方向に転移してもジャングルの中だったんだ。
ジャングルの奥地に家を建てて住んでいるとは……。
やっぱり、エロスは、普通の感性じゃないと思ったよ。
取り敢えず、ボクは手にしていた服を着た。
何時までも全裸ってわけには行かないだろうと思ったからだ。
しかし、着た直後、ボクは、すぐに違う服に着替えたくなった。
何故って、エロスが用意していた服は、ボンテージファッション。
女王様スタイルだったんだ。
さすがに、この格好には抵抗がある。
ジャングルを抜けたら、何処かの街に行って普通の服を買う必要があるな。