97 知っている光景
眠れない。
エマは、あまりにもモヤモヤしてしまっていて、眠れないでいた。
思い出す。
最後のキリアンの言葉。
『お前、早く表に出てこいよ』
そして、あの睨むような、からかうような目。
まるで……ジークを相手にしている時みたいだった。
ジークと話しているみたいだった。
ヴァルだって、どこかジークみたいだった。
ジークとキリアンは、仲が悪い。
本当に仲が悪いわけじゃなくて、それでも、会ったら喧嘩するような間柄だった。
一人は王太子付きの魔術師、一人は王都が拠点の騎士団長。
一緒に仕事をする場面も多い。
ジークは、生まれながらに王太子の側近として育てられ、国で唯一の大魔術師の後継者と言われるほどだった。
大魔術師の弟子は3人いたけれど、あとの2人は王太子本人と12歳の天才少年。魔術の腕と立場から言っても、大魔術師の後継者は炎の使い手ジークなのだと、誰もが思っていた。
キリアンはどこか、魔術師全てに喧嘩を売るような節があった。
キリアンは、侯爵家の子息とはいえ、家に反発し、騎士見習いから上がって来た人間だ。
生まれながらに王太子の親友で側近で、優遇されてきたジークとは、立場も性格も正反対。その上、あまり魔術師をよく思っていない。
そうくれば、まあ、仲は良くない。
大魔術師の弟子であるヴァルも、やはりジークと同じように気に入らないのだろうか。
本当に、あのキリアンなんだ。
まるで……ゲームの中に入ったみたいだった。
思い出すだけで、泣いてしまいそうになる。
本当に、ジークとキリアンが言い合うような世界が、ここにあったことを実感した。
それに……。
思い出すだけでモヤッとする。
ヴァルのほっぺたに……キス…………。
エマは、真っ暗な天井を眺めながら、眉を寄せた。
……ヴァルを守れなかった……。
……あの、パツパツ騎士団長が…………!!
掛け布団を握り締める。
いくら、騎士団長でも、友達同士でも、チュチュのパパでも、攻略対象のイケメンでも、やっていいことと悪いことがある。
本当に悪人なら、ヴァルが魔術を使わないわけない。
魔術を使わなかったところを見ると、悪人ではないんだろうし、それだけ知っている仲なんだろう。
けど、あんなことするなんて……。
ヴァルは嫌そうにしてたけど、気にしてる様子じゃなかった。
ちゃんと念入りに洗っただろうか。
そこでエマは、がばっとベッドから跳ね起きた。
眠れないんだし、今、ヴァルの部屋にこっそり入り込んで、顔をゴシゴシ拭くっていうのはどうかな!?
……無理か。
ヴァルは、顔を拭かれて大人しく寝ているような人ではない。
起こしてしまうし、攻撃されてしまうかも。
「あ〜〜〜〜〜〜もう!」
また、ちょっと涙目になりながら、エマはまた、ベッドに倒れ込んだ。
暗がりの中から見る窓の外は、真っ暗で何も見ることができなかった。
キリアンの家は、代々騎士をしている家です。剣で戦うのが得意なのは、娘であるチュチュも例外ではありません。




