94 パパ
学園へ帰ってももう授業はない。夏休みだ。
旅行疲れで各々のんびり過ごすだけで、翌日は終わってしまった。
あっという間に、チュチュが帰省する日が来た。
騒がしくなったのは、お昼前のことだ。
廊下でガッタンガッタンと音がするので何かと思ったら、チュチュが大きな鞄を持って階段を降りる音だった。
「手伝うよ」
とエマが言って、鞄を一緒に持ち上げる。
チュチュが珍しく慌てていた。
「もうパパが学園に着いちゃったらしくて」
そこで、エマが、一瞬きょとんとした。
チュチュのお父さん……そういえば会ったことがない。
「あっ」
エマが声を上げる。
「チュチュにおやつ渡そうと思ってたんだ。食堂にあるから、ちょっと取ってくるね」
言って、食堂へと走る。
クッキーを並べたお皿の横。リボンのついた包みを取り上げ、鼻を近づける。
「うん……いいにおい」
食堂を出て、早足で階段を下りる。
4階を通りすがった時、学園の正面が見える窓があるので、そこから覗いてみる。
すると、チュチュが小さいけれど頑丈そうな馬車の前で、一人の男性に抱きついていくところだった。
ああ、会えたんだ。すぐに出ちゃうことはないと思うけど、ちょっと急がないと。
あれが、チュチュのお父さん……。
ふいっと、また階段の方を向こうとして、チュチュのお父さんの姿を二度見した。
え……!!!???
足が、止まる。
ヴァルが階段を上がる途中、丁度そこへ居合わせた。
窓に張り付いているエマの姿を認め、訝しげに声をかける。
「……どした?」
窓の外。
窓の外に何があるかというと、今、ヴァルが鞄を持つのを手伝ったチュチュの迎えが来ている。
その光景を、見かけただけなのかと、そう思った。
けれど。
エマの震えるような手。
動揺した、それでいて感動している雰囲気の紅潮した頬。
こちらを向かない、横顔。
外に誰がいる?
外に誰が居るか、ヴァルは知っていた。
知っていて、顔を合わせないようにあえて外に出ずに階段を上がってきたのだから。
まさか……。
エマが階段に向き直り、そこで初めてヴァルの顔を認めると、
「……ごめん、チュチュに渡さなきゃ」
と、小さな、けれど慌てた気持ちを隠せていない声でそう言った。
エマの潤んだ瞳が見えた。
「な……」
声をかける間もなく、エマは階段を駆け下りる。すれ違う。
「エマ……っ」
呼び止めようと口を開いたけれど、呼び止めることはできずに、エマは階段を駆け下りて行ってしまった。
追いかけることもできない。
「な……んで……」
呟く。
学園の正面が見える窓を覗く。
程なくしてエマが学園から姿を現すのが見えた。
一目散に、その男へ駆けて行くのを見た。
「…………」
ため息を吐く。
見たくはないけれど、目を逸らすことはできなかった。
新展開です!怒濤のラブコメ展開でやっていきます。
次回は、新キャラ登場!!




