90 村の思い出
あまり、村に滞在する時間はない。
エマとヴァルが招待されているパーティーがあるため、滞在できるのはほんの5日程だ。
すでに、3日目。
森の奥まった場所で3人、座り込み、陽だまりを眺めた。
「あたし、」
リナリが話し出したのは、そんな時だった。
「この村に、思い出なんてなくて」
リナリが膝を抱えた。
「……帰ってくる時はいつも、みんな優しくしてくれる。優しくしてくれるけど。でも」
リナリが、地面に生える草を一心に眺める。
「ここが家だなんて思えなかった。今日はみんながいてくれて嬉しいんだ」
リナリのことは、チュチュもエマもなんとなく気付いていた。
ここに来てから、食事も寝る場所も、学園のみんなと一緒だった。
メンテも寝る時以外は一緒だったけれど、それでもメンテは兄達と時々話をしていたり、どこかへ出かけたりしていた。
リナリには、それがない。
エマが双子に出会った時でさえ、まだ双子は7歳だった。
ずっとずっと学園にいて、国も違う実家の思い出など、あるはずもなかった。
子供らしく飾られた自室に、真新しい着替え。
どれだけ周りが優しくしてくれても、時間を共有していない疎外感が消えることはない。
メンテみたいにうまくできればいいのに。
メンテみたいに割り切れればいいのに。
でも、居場所を作ることは、言葉で言うほど簡単なことじゃない。
それにもう、明日の夜、宴会に出たら、明後日には双子を残し4人は学園へ帰ることになっている。双子は夏休みの終わりまで、ここに滞在する予定だ。
「大丈夫だよ、リナリ」
エマがリナリに抱きつき、チュチュもそこへ飛び込んできた。
「学園で待ってるからね」
エマとチュチュは、リナリと村の散策に出た。
村の外からの客自体が少なく、店のようなものもない。
ただ、村の人達は人当たりが良く、いつでも歓迎してくれた。
3人で村の子供達と遊び、村の仕事を手伝った。
「あら、リナリ姫。お久しぶりです」
村を歩くと、リナリは姫と呼ばれていた。族長の娘なのだから、それもそうだ。
けれど、
「そ、そういうのじゃないから……」
と、言われ慣れていないリナリは、いちいち照れながら、2人にぶんぶんとなにかをかき消すように手を振った。
神殿へ帰ってからも、神殿探検をした。
宮殿の庭や、厩舎、洗濯場、台所まで。
思った以上にそこで働くみんなは歓迎してくれた。
リナリは、料理人に会うのは初めてらしかった。
「リナリ様、好きな食べ物は何ですかな?」
と聞かれたので、「甘くないケーキが好きです」と素直に答えていた。
台所を出てすぐ、俯いたリナリが、「ありがとう」と小さな声で言った。
夜はいつも通り、3人で、大きなベッドに転がって眠った。
双子は甘いものも普通に食べますが、好みで言えば、甘くないものが好みです。




