89 精霊の木(2)
ひょいと、手助けされながら馬に乗る。
馬は、4頭。
シエロ、チュチュは1人で。メンテはリナリと、ヴァルはエマと馬に乗る。
以前よりは落ち着いて乗れるようになっていて、ほっと一息。
とはいえ、冷静に乗れるようになったらなったで、背中の温かさが一際気になる……。
お、思ったより、密着してるよね……。
ヴァルが手綱を掴むから、どうしても抱えられるみたいな格好になるし。
前に一緒に乗った時より近いような。
気にしないようにしないと。
気にしない。
気にしない。
森の中を馬が進む。
「なんだか緑が濃くなっていくみたい」
そう呟くと、ヴァルが、
「そうだな」
と呟く。
思ったよりその声が近く、金縛りにあったようにフリーズする。
うわぁ……。
邪念を捨てないと……。
冷静を装おうとしたその瞬間、背中に、とん、とヴァルがぶつかる。
「……!」
う……わああああああ。
ヴァルの馬は先頭を走っていた。
誰からも顔が見えない位置でよかった……。
「はは……」と変な笑いを小さく漏らす。
景色をゆっくりと見る間もなく、目的地に着いた。
馬から、6人が降りる。
チュチュが、わーっと駆け出した。
「これが……御神木……!?すごーい!」
エマが見上げる。
そこにあるのは、緩やかなカーブを描きながら天へ登るように伸びる、大きな木だった。
鮮やかな緑色の葉が、ざわざわと騒めく。
圧巻だった。
自分が小人にでもなったようだった。
もっと、物語に出てくるユグドラシルのようなものなのかと思ったけれど、それとも違う。
もっと、“木”だった。
長い年月を生きる“木”。
見たことがないものじゃない。
広がるように伸びる大きな枝。
整った形の葉。
これは……。
「これ……、桜……?」
「よく知ってるな」
隣でヴァルが、感心したように言う。
近くで木を見上げていたシエロが、
「そう、これは桜の木なんだ」
と、先生らしい、静かな声で言った。
「花が咲けば、翼竜が花見に来るそうだ。……もっとも、そんな姿を見た人間はいないらしいけれど」
シエロの声音に、いつもと違う色が見えた気がして、エマはシエロの方を見た。
「うちの学園は、この木に宿る精霊の子なんだ。学園長が精霊に手助けしてもらうときにね、精霊の付き添いとして来たのが、あの双子。御神木を守る族長の子供たち、メンテとリナリ」
メンテとリナリが、木へ向かって歩いて行く。
リナリが目を閉じ、木に抱きつくようにすると、メンテもそれに倣うように手のひらを木に押し当てる。
ああやって、木に挨拶してるんだろうか。
「わー!」っと叫びながら木を一周していたチュチュも、木に飛びついて行く。
エマも木に向かって駆け出すと、木に抱きついて行った。
「ふふふー」
チュチュがドヤ顔で笑ったので、エマも「ふふっ」と笑い返した。
花が咲いたら綺麗だろうな。
しばらくして、チュチュとシエロが馬を駆るため、先に行ってしまった。
リナリはまだ木に抱きついているので、メンテが「先に戻ってて」と優しい声で言った。
帰りは、二人きりで、馬で森の中を行く。
ふとしたときに、背中が、とん、とぶつかる。
背中!
だから背中!!
後ろの存在が気になりすぎて、顔が熱くなる。
エマは、絶対に馬には乗れるようになろうと、心に誓った。
“精霊の子”という呼び名ですが、精霊と血縁関係はありません。精霊が子供を産むわけではないのです。




