88 精霊の木(1)
朝は早くに目が覚めた。
チュチュとリナリは、まだぐっすりと眠っていた。
ベランダに出ると、うっすらと霧がかかり、エマの鼻を早朝の匂いがくすぐった。
高い場所にあるベランダからは、宮殿の裏側が見える。
宮殿から一つの集団が出ていくのが見えた。
ヴァルとシエロがいる。2人ともマント姿だ。あとの2人は、双子の兄の誰からしかった。それぞれが馬を引いている。どうやら、今から馬で走りにでも行くようだった。
4人が馬に跨り、走り出したので、エマはそれを目で追った。
「…………」
じ……っとみる。目に焼き付けるように。
……かっこいいな。
黒髪が風に流れる。深い緑のマントがなびく。
背が伸びてから、シルエットもすらっとしてきた。
振り返ることもなく、真っ直ぐ前を見て。
「……エマ?」
集中している時に、突然、後ろから声をかけられて、びっくりする。
寝起きのチュチュだった。まだ、眠そうな目をしていた。
「突っ立ってると風邪引いちゃう」
言いながら、何を見ているのかと、エマの視線の先を追う。
ゆったりと駆ける馬が、チュチュにも認められた。
「かっこいいね」
そう言われ、エマがビクっとした。
「ああ、あれ、先生か」
という言葉で、チュチュが見ていたのがシエロだったことがわかり、少しだけほっとする。
「王子様みたいだよね」
チュチュが言いながら笑うので、シエロのほうへ目をやった。
栗毛の馬を走らせている。
金色の髪が眩しく輝き、白いマントが翻る。
太陽の光すらシエロを引き立たせるために存在するんじゃないかと思える。
ここはどれだけ神聖な場所なのか。
うん、でも。
かっこよさで言えば、黒い馬を走らせるヴァルのほうがよっぽどかっこいいけどなぁ。
口には出さず、心の中でそう思う。
「ヴァルもいるね。置いて行かれちゃった?」
黙りこくっているエマを勘違いしたのか、チュチュがエマの顔を覗き込んだ。
「ううん」
静かに笑って言う。
「かっこいいなぁって思ってただけだよ」
その日の朝食で、シエロが「今朝、馬で散歩してたんだけど」と、切り出した。
朝食の席に着いているのは学園の6人だ。
族長が、「気を遣わせることもないから」と、夕食以外は6人で取るようにしてくれていた。
場所は相変わらず大理石でできたテーブルで、20人程は座れるようになっている。6人いてもちょっと寂しいくらい。
「ここの御神木はすごいよ」
「見たーい!」
早速声を上げたのはチュチュだ。
「私も……!」
と、声を上げたのはいいけれど、今朝、みんなが馬で出かけたということは、もしかして馬でしか行けない場所なんじゃないだろうか。
メンテが、
「リナリは僕が乗せてくよ」
と言ったので、やはり、そういうことかと落ち込んだ。
「エマ、俺と行こう」
隣にいたヴァルがそう言ったので、一転、ちょっと嬉しくなる。
「……うん!」
とはいえ、いつまでも甘えていてはいけないので、早く乗れるようにならないと。
「僕のところでもいいよ」
シエロがエマに向かって、パチン、とウィンクした。
う……うわぁ……!
レアスチルゲット!!!!
じゃない。
「ヴァルに乗せてもらうので大丈夫です」
あはは、と笑いながら言うと、シエロが「ちぇ~~~っ」と言いながら少しふくれたので、また心の中で大騒ぎしてしまった。
木の精霊はここの御神木に宿っています。ちなみに水の精霊はみんなが住んでいるセラストリア王国の森の中の泉に宿っています。




