86 奇襲(2)
シエロ、エマ、リナリが乗っていた気球が降り立つ。
地面に着地するやいなや、シエロが小さく、「静かに」と忠告した。
全員に緊張が走る。
盗賊らしき人間の、矢尻や剣が光るのが見えた。
「歩の集積」
シエロが高らかに声を上げる。
トン、と突いた杖の上に魔法陣が煌めき、弾けるように消えた。
広く円状に、盗賊が潜んでいるであろう場所の地面が、ドプン、と音を立てて沼のようになる。
盗賊達の足がズブン、と埋まったところで、バキバキ……と音がして地面が凍った。
足を取られた盗賊達の喚く声がそこここで聞こえる。
武器が氷の上に落ち、ガン、ガン、と音がした。
「牢」
リナリが地面に手を突き、高く叫ぶ。
リナリの腰にぶら下げてある木製のチャームの前に、魔法陣が光り、弾けるように消えた。
一人の盗賊を中心に、棘のある蔓が伸びる。伸び上がった先、上空2メートル程の場所で蔓が集まり、丁度一人分の細長い牢のようになった。所々に薔薇の花が咲き、鳥籠のようだ。
リナリが走り込み、同様に牢を作っていく。
それを補助するように、エマが走る。
「突き刺せ!」
エマが叫び、腕輪に付いた石の前に、魔法陣が光り、弾けるように消えた。
まだ弓をこちらに向けていた人間の手元で、バチン、とスパークが起こる。その度に、弓がカラン、と音を立てて落ちた。
数人の弓を弾き飛ばし、なんとか状況が落ち着く。
10人。襲ってきた全ての盗賊らしき人間達の捕縛を確認した。
「この人達は……?ヴァル、達は……?」
操縦士にもう一つの気球の場所を聞くと、エマはそちらの方を見た。
駆け出そうとしたその時、
「エマ!」
目の前に現れたのは、ヴァルだった。
「ヴァル!!」
「無事か!?」
ヴァルがエマの下へ駆け寄る。
「うん、ヴァルは……」
エマがヴァルの腕をなぞるようにして無事を確かめ、ヴァルがエマの頭を抱えるように撫でた。
「みんなは?」
「大丈夫だ」
ヴァルが、こちらのメンバーの無事を自分の目で確かめる。
そこでやっと、全員が安堵の表情を浮かべた。
シエロとヴァルが二人がかりで見通しのいいところへ盗賊らしき10人を転がす。
ヴァルがそのうちの1人の首根っこを掴んだ。
「お前らは?何?」
「……っ」
その男は、苦しそうに顔を歪めた後、
「森で暮らしている……。それだけだ」
と一言言った。
その男達は、やはり盗賊だった。
国に属していない森に勝手に住み着き、人を襲っては生活を成り立たせているらしい。
人を襲うような人間達を野放しにするわけにもいかないので、これから行く、トーラリス族の族長に引き渡すことにした。
走ってやってきた気球の操縦士と、案内所にいた人間達がこぞって手助けにやって来たので、盗賊達はその操縦士達に任せることにした。
同じく操縦士達に盗賊を任せたらしいメンテとチュチュが、程なくして合流した。
「あっちだよ」
どちらを向いても同じようにしか見えない森の中。
メンテが、トーラリス族の村へ、案内してくれる。
ふいに、「メンテ!」と森の中で声をかけられた。
森の奥から出てきたのは、独特な紋様を描いた服に、軽そうな皮の鎧を身につけた、いかにも弓兵といった雰囲気の男性だった。その服装から、一目でトーラリス族の人間だとわかった。
エマとリナリの魔術は、殺傷能力が高すぎるので、こういう時は単体攻撃しかできません。




