84 気球の旅
馬車は、山を下り、とにかく広い草原に着いた。
見渡せど見渡せどただただ広い。
目の前には、2機の大きな気球が、気球の操縦士と一緒に待ち構えていた。
気球はそれぞれ、大人4人までだ。
気球の停留所に馬車を預け、それぞれが荷物を持って気球の前に並ぶ。
全員が学園のマントを身につけていた。普段はみんなあまりマントを使っていないので、全員がマントを羽織っているのは初めてだ。
「じゃあ、チーム分けしようか」
シエロの笑顔がみんなの方を向いた。
「メンテとリナリは、道も知っているだろうから、それぞれに乗ってもらおう。僕はリナリの補助をするから、ヴァルはメンテの補助を」
そして、シエロは悩むポーズをする。仄かな憂いの空気が似合う人だ。
「じゃあ、チュチュはヴァルと、エマは僕と行ってもらおうかな」
「えーと……それはなんで?」
ちょっと不機嫌そうな口調で口を挟んだのはヴァルだった。
「リナリと組ませるなら、チュチュよりもエマの方が最適だからね」
シエロはにっこりと笑顔を作る。
これは魔術的な相性の話だ。
確かに一理あるの話なので、ヴァルはそれ以上は何も言わなかった。
リナリとエマとシエロが、3人連れ立って片方の気球に近付いて行く。
メンテとチュチュがひょいひょいと気球のバスケットに飛び乗ってから、ヴァルがバスケットの縁に手をかけ、飛び乗る。
ヴァルがシエロの方を見ると、バスケットをよじ登ろうとするリナリに、シエロが手を貸すところだった。
よりにもよって、リナリの腰を掴み、持ち上げて、バスケットの中に降ろす。まるで、小さい子供を持ち上げるみたいに。
リナリがびっくりした表情でバスケットの中に収まった。
まさか……。
シエロはそのままその手をエマの腰の方へ持っていく。
おおおおおおい。
エマは笑って、一人でバスケットに乗り込んだけれど。
「あいつ…………」
呟くと、後ろでメンテの苦笑が聞こえた。
「魔術師の師弟関係に勝てる関係なんてないでしょ」
「…………」
そう。魔術師になったからには、師を一番に信頼するものだ。
師匠本人と、学友の一人では、どちらを重んじるかなんて誰もが知っている。
ヴァルは、重いため息を吐いた。
操縦士が高らかに声を上げる。
「ジェントル・ウィンド」
帽子に付いているバッジの前で魔法陣が光り、弾けるように消える。
すると、ふわりと風が巻き起こり、気球が空へと浮き上がった。
気球の操縦士は全て風の魔術師なのだ。
風の操縦士が起こした風で進む気球は、操縦士の思いのままの方向へと飛んでいく。
そんなわけで、風の魔術師達が立ち上げた気球運輸事業は、軌道に乗っていると言って間違いなかった。
「ヴァーーーールーーーーー!」
離れた場所に浮かぶ気球からエマが両手で手を振っている。
ヴァルもエマに手を振り返した。
青い空の中、思った以上の速さで、気球は進んでいく。
チュチュは接近戦専門なので、遠距離攻撃ができるエマの方がリナリとは相性がいいのです。




