83 馬車の中で(2)
翌日、ウインナーを炙って、パンとお茶で朝食にした。
荷物を馬車に積む。
今度は山を降りる行程だ。
朝は早くから全員で馬車に乗り込む。御者台にいるのは、リナリとシエロだ。
晴れた空の下、馬車が出発して間もなくのことだった。
馬車の中のクッションをかき集め、ヴァルがゴロンと横になった。
丁度、エマのすぐ隣に、ヴァルの頭がある形で。
「俺、ちょっと寝る」
と、一言言い残して、目を閉じてしまう。
ずっと眠そうだったもんね。よほど眠れなかったんだろう。
「…………」
膝を抱えて、膝の陰からこっそりと覗く。
寝てる…………。
チュチュとメンテは何やら二人で話している。気球がどーのこーのとか。森がどーのこーのとか。
そんな話も頭に入ってこなくて、エマはただじっとヴァルを見ていた。
エマの方を向いて寝ているので、その鼻筋がよく見えた。
眉毛に……、睫毛に……、頬に……、口に……、耳に……。と、じーっと眺める。
思えば、エマがヴァルの寝ている姿を見るなんて初めてなのだ。
この距離でこれほどじっくり見る機会なんてそうそうない。
ただ、ひたすらにじーっと見る。
黒髪。
綺麗な黒髪。
シエロやメンテのようなどう見てもサラサラではなくて、いつも髪がピコピコしているから硬い……のかな。
それとも……。
ウズウズ。
もし……。
考えてしまう。
もしあの髪に触ったら、どんな感じがするんだろう。
もう、それを考えてしまったらダメだった。
……触りたい。
おもむろに手を伸ばす。
クシャ……、っと手に髪が触れる。
あ…………。
突然、顔が熱くなる。
これ……、思ったより……、気持ちい……。
目を逸らす。
頭に触れる。
う……うわぁ……。
ヴァルの頭をクシャクシャと撫でながら、そっと、ヴァルの方を見た。
あ………………。
ヴァルが、妙ににこやかな、それでいていつもの偉そうな笑顔で、こっちを見ていた。
あ………………。
そうっと手を離す。
うわあああああああ!!
触っちゃいけないやつだった!!!!???
そ、そうだよね。普通は触らないよね!!!????
うわああああああああああん!!
謝ろうにも声も出せずにいると、ヴァルが、ふうん?とでも言いたげな顔で、エマを見る。
声も出せずに、誤魔化すように笑おうとして、失敗して。
抱えていた膝に顔をうずめた。
それから視線を感じなくなるまで、結構な時間膝に顔をうずめていた。
心臓がバクバクする。
少し顔を上げると、ヴァルの頭は相変わらずエマの傍らにあって、ヴァルはもう寝直していた。
ちょっと涙目になりながら、寝ている姿を見る。
一つ、小さく息を吐く。
膝に頭を乗せる。
また膝の陰からその寝顔を覗く。
「…………」
エマは、きゅっと膝を抱え直した。
他の4人は気づいていないわけがなくて、このバカップルこんな狭いとこでもイチャつくのかよって思いながら、温かい目で見守っています。




