80 みんなでキャンプ(1)
翌朝。
町を出た馬車の手綱を握るのは、珍しくヴァルだった。その隣はシエロ。
ヴァルとシエロはそれぞれ別のチームにいるようにしていたみたいだったけれど、今回は特別らしい。
馬車は次第に、山へと近付いて行く。
岩肌の多い道。周りには針葉樹が増えてくる。
ガタガタ、と音がして、馬車が石の多い道に入ったことがわかった。
「いつもこんなところを通って帰ってるの?」
エマが聞くと、メンテが困ったような顔をした。
「そうなんだ。この道が一番早く帰れるからね」
「へぇ……」
外を眺めると、背の高い木が陽を遮った。
ゴツゴツした岩肌を片側に見て、折り返しながら山を登る。
馬車の反対側の先が崖になっているのかと思うと、ゾッとする山道だ。
そんな坂道を、馬車は昼過ぎまでかけてゆっくりと登った。
登り切ると、広場に出た。
誰もいないなりに、木でできた柵で囲われており、キャンプをするための場所であるようだった。
「今日はここでキャンプをするよ」
馬車の中を振り返ったシエロが、笑顔で言う。
みんながぞろぞろと降りて、う〜んと伸びをした。
遠く、見たこともない景色が広がる。
初めて見る、山の向こう側。
広い草原が広がる。
森……のようなものは見えない。
その代わりに見えるのは……。
羊と。
「気球……?」
エマの隣で、リナリはふふっと笑った。
「そう。明日山を降りたら、気球で行くんだよ」
エマが見たもの。それは確かに熱気球だった。
赤や黄色の大きな丸い気球がいくつも浮かんでいる。
遠くへ飛んでいく。
もしかして、あっちの方向がリナリのおうちなの?」
気球は一定方向へ飛んでいく。
「そうなんだ」
そう言うとリナリは、遠く遠くへ目をやった。
一息つくと、全員でバーベキューの準備を始める。
エマとリナリが食材を切り、チュチュが食材を串に刺していく。
ヴァルとシエロがあーだこーだいいながら、火起こしをしていた。
「炎系は疲れるんだよね」
シエロが困った顔で首を傾げた。
「お前がやらなくて誰がやるんだ〜?」
「え〜〜〜〜」
やっぱり、この二人、仲良いんだよね。
結局、火は、シエロが杖をぐるぐる回して精神統一した末に、気合を入れて火をつけた。
炎が安定してくると、少し早い夕食だ。
積んだ石の上に、金網を乗せる。
いかにもなバーベキュー。前世でのレジャーのイメージまんま。
「それ私焼くから。ほら、ヴァルは休んでて」
今まで御者台に居たから、ヴァルだって疲れているはずなのに。調理だってしようとするんだから。
調理を代わり、お皿に焼けた肉を取り、ヴァルに押しつける。
チュチュが、火に風を送り、2人で力を合わせて食材を焼いていく。
気付くと、隣にヴァルが居て、エマの口元によく焼けた肉を差し出してきたところだった。
「…………」
見上げると目が合った。ちょっと面白そうな顔。
仕方なく口を開ける。
「あ……んぅ」
もぐもぐ。
「美味しい」
呟くと、しゃがんでずっと火の番をしていたチュチュが顔を上げて、
「あっ!アタシのは!?」
と叫んだので、ヴァルが「ハハッ」と笑って、チュチュをからかいに行った。
「肉?」
「肉!あーん」
「はい、あーん」
「ってほえ、もーもこもこあむ〜〜〜」
山並みが国境です。シュバルツからは海が遠いので魚介類はあまり食事に登場しません。




