79 月の下
その町は、国の中心からは外れた場所にある町だった。けれど、そこは、国外と交流をするときの拠点であるらしく、なかなかな賑わいを見せていた。
越えるべき山が直ぐ近くに見える。
1日目の夜は、ここの宿に泊まる予定だ。
みんなで、
「よろしくお願いします」
と言ったら、なんだか修学旅行か何かみたいで、ちょっと楽しくなってしまった。
今日は2部屋。
男子部屋と女子部屋だ。
女子部屋に入ると、大きなベッドがどーんと置いてあった。キングサイズ2つ分くらいだろうか。
「うわぁ……」
部屋の中をキョロキョロしてしまう。
レンガの壁。温かそうな暖炉。
チュチュがベッドに手を突いてみる。
「す……すごい大きいね」
ふと、男子部屋にもこれと同じものが置いてあるのだろうかと考えてしまう。あの3人が同じベッドで寝るなんて……ちょっと笑ってしまいそうだ。仲良くお喋りするイメージもない。
大きな温泉に入り、夜はリナリを真ん中にして眠る。
学園のお風呂では3人で入ることもあるし、寝ないまでも部屋で3人でいることも多いので、それほどの違和感もない。
「ん……」
エマが目を覚ますと、目の前に、大きな窓が目に入った。まだ外は真っ暗だ。
むくり、と起き上がる。
疲れているはずなのに、目が覚めてしまった。
テーブルの上に置いてあった水差しの水を一口飲むと、のそのそと部屋を出ていく。
廊下に続く大きな窓の外。
誰かが立っているのが見えた。
あれは、シエロだ。
宿の中庭。
杖を掲げて、空を見上げている。
わぁ……。
それは何かの儀式みたいな。どこかの映画のワンシーンみたいな。そんな、姿だった。
まるで、人間を魅了するセイレーンが歌っているみたいだ。
エマがじっとその姿を眺めていると、
「何、見てるの?」
と、耳もとで囁く声があった。
「…………!!」
この……声……!
耳を塞ぎながら振り向くと、案の定、そこに居たのはヴァルだった。
かあっと顔が熱くなる。
思ったよりも近いところにいるその姿。身体の中心に、電気が走るような感覚を覚える。
「ヴァル……」
見上げる。
「あの……先生が、綺麗だと思って……」
小さな声で言う。
「ふうん?」
どれどれ、と窓の外を覗きに来ると、余計に距離が近くなる。
うわぁ……。
「俺たちも外、行くか」
そう小さく言ったヴァルに、「うん」と囁いた。
二人、外に出ると、ヴァルはシエロがいる方とは逆へ歩いていく。
人もまばらな町の中を行くと、だんだんと人の気配も減ってくる。
人の気配もなくなり、灯りもなくなり。
二人だけで立つ町外れ。
こんな場所では、そう。
二人、空を見上げた。
満天の星空。
「わぁ……。ねえ、ヴァル……」
と、ふと、ヴァルの方を見た瞬間だった。
あれ?
ヴァルの姿に目を奪われる。
その姿を、知っているような、気がした。
待ち望んでいたものに、出会えた、ような。
涙が出そうになって、目を逸らす。
何、これ?
ぼんやりとした気持ちのまま、宿に戻る。
男子部屋の前で立ち止まる。
見上げると、ヴァルと目が合う。
えーと……。
「そ、そっちの部屋も、ベッドは一つなの?」
髪をいじりながらそんなことを聞くと、ヴァルが、目の前で笑った。
「ははっ……そうだよ」
それを聞いて、3人が仲良く並んで寝ている姿を想像する。
「ふっ……ふふ」
くすくすと笑う。
ヴァルを引き留めたいと持ち上げた手を、小さく振る。
「おやすみ、ヴァル」
「おやすみ、エマ」
ちょっと偉そうな顔を見上げると、部屋へ戻る。
ドアを開けたところでまた一度振り返ると、ヴァルは、エマが部屋へ入るところまで見守ってくれていた。
また、小さく手を振って、部屋の中へ入った。
双子が一番早寝早起きです。




