75 お裁縫教室
午後の食堂。
エマは、リナリの手元をじっと見ていた。
リナリは、食堂のクッションコーナーのクッションを増やすべく、クッション用の生地に刺繍をしているところだった。
「リナリは器用だね」
頬杖をつき、うっとりと眺める。
リナリが、あははと笑った。
「ホントは、メンテの方が得意なんだけどね。かわいい物は作らないから」
確かに、メンテは細かい作業が得意そう。
ふと、エマは思い立って言う。
「ねえ、リナリ。それ、私にもできるかな」
「お裁縫?」
「そう。ちょっと、ぬいぐるみ、をね。作ってみたいんだ」
ちょうど学園に来た頃、ジークのぬいぐるみを作れないかと、ちょっとだけ考えたことがある。
「いいね!クマなら作ったことあるんだけど。どういうの?」
「えーと。人間なんだけど。魔術師で、マントつけてて」
「へえ……。人間は作ったことないけど、手伝うよ!」
そんなわけで、二人は、町の雑貨屋へ足を運んだのだった。
「お店の奥が、手芸コーナーになってるよ」
ファンシーなカントリー風のお店の中を歩き、少し奥まった場所へ足を踏み入れる。
そこには、沢山の布や糸が置いてあった。
「すごーい」
周りを見渡す。
「こんな布はどうかな」と言いながら、リナリが少し厚めの生地を選んでくれた。
「いいね」
「その人、髪は何色?」
「……黒」
「瞳は?」
「……金色に、赤」
「へぇ……?」
とリナリが何かに思い当たったように呟いたけれど、何も言わなかった。
布、糸、ボタン、紐、綿など色々買い込んで帰り、早速エマの部屋でリナリの裁縫教室が始まった。
お裁縫は、前世以来だ。前世でも、中学校や高校でちょっとやったくらい。あまり得意な方じゃない。
「布に線を引いていくんだよ」
「ふむふむ」
と、作業は進む。
「腕!腕ができた!」
「おめでとー!綿を押し込みながら、入れていこう」
「刺繍糸で縫えばいいの?」
「そう。クルクルって」
そんな調子で、1週間ほどかけて、身長20センチ程度のぬいぐるみが完成した。
黒い布で作った髪を、細い紐で結んだ。
金色と赤の刺繍糸で瞳を作った。
この世界で初めて見る、ジークらしき姿だった。
目が、潤む。
「リ、リナリ……。ありが……とう……」
「ううん。役に立てたならよかったよ」
リナリが嬉しそうに笑った。
ぬいぐるみは、本棚に飾った。
「へへっ」
なかなか、いいんじゃない?
翌日。
「ありがとう、リナリ」
食卓に座ったリナリの目の前には大きなアップルパイがあった。
「作ったの。お裁縫、教えてくれたお礼!」
「うわぁ……。エマ、すごい!」
リナリの瞳がキラキラした。
「何?誕生日かなんか?」
なんて言いながら登場したのはヴァルだった。
「お裁縫教えてもらったから、お礼なんだ」
「へえ、なんか作ったの?」
「うん……。ぬいぐるみ」
「…………?」
なぜかエマが恥ずかしそうな顔をしたので、ヴァルが首を傾げた。
今回、次回の2回はクールダウン回。
77話からはみんなで旅行エピソードに入ります。ちょっと長いです。




