71 君が歌う歌(4)
朝食の後、二人で町へ出かけた。
「賑やかな町だね」
騒がしく、賑やかな町。
お店も、学園の近くにあるリッターの町より多い。
露店やこじんまりとしたお店が多いようだ。
「お菓子は食堂のおばちゃんがお礼にくれるって言ってたんだ」
「じゃあ土産は食えないやつか……」
「言い方……。あ……」
エマの声にヴァルがエマの視線を追う。
それは、露店で出しているアクセサリーの店だった。
「チュチュは赤いリボンが似合うと思うんだ」
チュチュは瞳の鮮やかで深い緑に、赤が似合うと思うのだ。
「俺、そういうのはわかんないからなぁ」
ヴァルが真剣な目で露店の商品を眺める。
「リナリなら、濃い青かな」
「じゃあ、メンテも青か?」
言いながら、隣に置いてあった深青のリボンタイを指差す。
「いいね」
「お前なら、これ?」
そう言いながらヴァルが手に取ったのは、茜色のシンプルなリボンだった。
思いがけないことに、一瞬、心臓が跳ねる。
選んでもらえた……?
それぞれのリボンを買うと、ヴァルが茜色のリボンをエマの手に渡してくれた。
手の中のリボンをじっと見る。
「へへっ」
……嬉しいな。
そして、残りはシエロのお土産だ。
「先生は何が好きなのかな」
「シエロの好きなもの……か」
二人で空を見上げて悩む。
ショタのシエロくん。天才少年のシエロくん……。
これ以上ないくらいの綺麗な顔だけど、正直、オシャレをするイメージがない。普段はいつ見ても魔術師服だもん。
「あ、あれは?」
それは、アミュレット専門の露店だった。
「お守り、か。ま、いいんじゃね?」
露店にはキラキラとした宝石のついたアクセサリーのようなものが並べられていた。
アミュレットはその名の通り、魔術がかかったお守りだ。
効力はもちろんある。そしてそれはもちろん、強さまちまちなものだ。
効くものは効くけれど、効かなくてもご愛嬌。
「うーん」
といっても、どれも同じに見える。
「どれがいいの?」
「ふーん……」
と、ヴァルがすました顔で商品を見渡す。
「どれでもいいよ」
「どれでも〜〜〜?」
疑わしい目でヴァルを見ると、ヴァルはちょっと優しい目になって、
「弟子からのプレゼントなんて、何やったって喜ぶだろ」
と、ふっと鼻から息を吐いた。
「そっか」
ちょっと照れながら、青い石の付いた、黒いアミュレットを選ぶ。チェーンが付いており、大きなキーホルダーのようだ。
店員のおじさんがニコニコと、
「それは悪夢除けのまじないがかかっております」
と言う。
ヴァルがアミュレットを手に取る。
「ああ、本物だな」
「じゃあ、おじさん、これください」
「はい、まいどありー」
「あと、これ、はどうかな」
「ん?」
エマが手に取ったのは、銀のアミュレットだった。こちらには赤い石が付いている。
「そちらも悪夢除けでございます」
「ヴァルにどうかな」
様子を窺うように顔を見上げると、ヴァルが、いつになく優しい顔で嬉しそうに言う。
「うん、いいな」
午後には、商人を訪ねた。
結構大きな食材の店舗で、名前を言うと、丁寧に応接間に通された。
「お待ちしておりました」
思ったより若い、30歳そこそこの男性が、正面に座った。
ヴァルが、食堂から預かってきた書類と料金を出すと、すんなり取引が終了した。
これまた海賊のような男達が、馬車にハーブやチーズなどの食料を載せてくれた。
「ありがとうございました」
頭を下げると、商人のラムナさんが、人当たりのよい笑顔でニッコリと笑った。
あっさりと用事は終わり、また二人、馬車に乗る。
学園へ帰る道だ。
昨日に引き続き、空は晴れている。
風を受けて馬車が走る。
「涼しいね」
御者台にいるヴァルの後ろから声をかける。
「ああ」
遠くまで続く草原。
カポカポと、走る馬の足音。
「馬車に乗る前に、おやつ、買ってきたんだ。どこかで食べよ?」
「うん、いいな」
ヴァルの嬉しそうな声。
晴れた空の下で馬を止め、二人、木陰に腰を下ろし、紙袋を開いた。
紙袋には、たい焼きが2つ。
確かに魚の形をしており、中は餡が詰まっている。
「珍しいな」
「リッターには売ってないもんね」
はむはむと食べると甘い香りが広がる。
「美味しい〜」
幸せな気分で空を眺めると、緩やかに白い雲が流れていくのが見えた。
ヴァルに向かって「へへへ」と笑いかけると、優しい瞳が返ってきた。
お泊りデートエピソードは次回でラストです。




