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7 母

 うとうととした微睡の中で、廊下をバタバタと走る音が聞こえる。

 このお屋敷では基本的に、上品でシンプルなワンピースを着たメイドさんがゆるゆるとお仕事をしているくらいで、走るような人は存在しない。

 なので、あまりのことにびっくりして飛び起きてしまった。

 バタバタした誰かが通り過ぎるのを待つ。


 と、途端に扉が開いた。

 騒がしい音と共に、一人の女性とメイドが入ってくる。

「お、奥様……!」


 奥様。

 そう呼ばれるということは、この家の奥様なのだろう。

 ということは……まさか私のお母さん?


「エ~~~マ~~~!」

 驚く暇も、避ける暇もなく、ぎゅむっと抱きしめられた。


 やっぱり……そういうことなんだろう。


 それにしても、すごい服を着ている。

 豪奢、というのかな。

 普段着というより、ドレスに近いんじゃないかというほどのフリル。

 ……悪役令嬢もので着てそう。もしくは、ファンタジー系のゲームとか?

 まさか本当に異世界?と思えるほどの格好。

 それとも、この国のお金持ちはこんな感じなんだろうか。


「元気ね?」

 エマの顔を覗き込むその人は、まだ若く、ハキハキとした美人なお姉さんだった。まとめあげられた金髪。くりくりとした茶色の瞳。にっこりとした笑顔。

「まさかあなたと3ヶ月も離れることになるなんて思わなかったわ。お父様は元気だったわよ」

 また、ぎゅむ〜っと抱きしめられる。


 どうやら、母親はどこか単身赴任に行っている父親に用事があって出かけていたようだ。

 都市の名前でも言ってくれれば、きっとヒントになるのに。


 それからというもの、母も毎日見る顔になった。


 母親。

 以前の暮らしでは、あまり関わりのなかった人。

 両親とも小さい頃に亡くなってしまったせいで、あまり記憶に残っていることもない。

 叔母家族に引き取られたものの、その家にはもう子供がいた。あまり家族らしい家族にもなれず、大学に入学するのと同時に家を出た。


 なので、母親という存在が、どうしてもくすぐったい。

 こんな風に人と関わったことがないから。


 仕事が忙しいらしく、ずっと一緒というわけにもいかなかったが、メイドに面倒をみさせるあたり、まさにお金持ちという感じがする。

 そして毎日会う母は、いつでも時代を間違えた人みたいに、どこかのファンタジー系の映画に出てきそうな格好でエマに会いに来てくれた。

 夕食は必ず一緒だった。

 上品なマリアと豪奢な母親。

 一見すると、なんだか中世のようだ。


 実は、地球の過去のどこかだったりして?

 時代を越えて過去に生まれ変わるなんてあるだろうか。

 かといって、魔法のようなものを見たことがあるわけでもない。

 ……どっちが現実的だろう。


 まさか。ないないないない。普通に考えてどっちもないって。

 つい、期待してしまうんだ。ここがジークのいる世界だったら、と。魔術なんてみたことないくせに。キャラクターでもなんでもなくて、自分が自分として生まれたんだってわかっているくせに。

 異世界転生ものを読み過ぎたんだ。そんな妄想はやめよう。

 私は、大きくなったら、スマホで『メモアーレン』をして、公式グッズを取り寄せるんだ。


 でもこんな服装……。部屋の装飾……。現代のものを一切見かけない部屋。

 現代とは思えない、妙な違和感が、頭の中を揺らす。


 国名も何もわからないまま、その暖かな部屋での生活はゆるゆると過ぎていった。

 言葉はわからないけれど、正直、居心地のいい場所。


 大きな窓のある大きな部屋。赤を基調とした豪華な家具。そこに置かれたベビーベッドや赤ちゃんのおもちゃたち。

 そんな部屋の中をよちよちと歩く。

 歩くたびに、母が褒めてくれるので、少し調子が狂う。

 今は、出来るだけ体を動かして、言葉を覚え、生きる方法を模索するのが一番だ。

このお屋敷にはメイドさんの制服はありません。各々動きやすいシンプルなワンピースを着ています。

この国で、メイドさんの制服があるのは王城くらいのものです。

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