63 お散歩しようよ(1)
その日、昼食を食べた後のことだった。
エマは2階の玄関ホールにいた。
日差しが窓から入り込む。
ひだまりの中に据えられた長椅子に、ちょこんと座っていた。
窓の方を見ていると、後ろから声がかけられた。
「エマ!」
明るい声にくるりと振り向くと、チュチュが抱きついてきた。
「あっぶないよー」
抱きとめながら言う。
「お待たせ!」
「うん、じゃあ行こっか」
今日の午後は、たまたま2人とも時間が空いたので、チュチュと待ち合わせをしたのだ。
「エマ、馬の練習はしてる?」
「してないよ」
「しようよ!今度、馬乗ろう!」
「いいね。教えてくれる?」
「教えるならヴァルの方が上手だよ。馬はアタシの方がうまいけど」
お散歩がてら、町まで歩いて行くことにした。
学園の近くにあるリッターの町。
「双子もね、そろそろ馬に乗れるようにならないと、帰省しづらくなるって言ってるの」
「じゃあ一緒に習おうかな」
春も真っ盛りで、森の中は色とりどりの花が咲いている。
「もうバラが咲いてるね〜」
町まではちょっと遠いけど、馬車で町に行く時もアイススケートの時も、あまり景色を見る余裕はなかったから、こういう散歩はとても楽しい。
森を抜け、緩やかな丘を越えると、町が見える。
「どこ行く?」
「まず服!」
「仕立て屋さんね」
この町は小さい。
店舗の並ぶ通りが2つ。
店自体はいろいろ揃っていて、かわいいデザインで人気の仕立て屋なんてものもある。
店の外から、ショーウィンドウを覗く。もうすぐ暖かくなるので、夏服で飾られている。2人の目当ても夏用の半袖だ。
大きなショーウィンドウの服やリボンを眺めながら、青いストライプの庇をくぐる。
「こんにちは〜」
「いらっしゃいませ」
黒髪をきっちりとまとめたにこやかな女性が出迎えてくれる。
「あら、学園のお嬢様方」
「今日は全身お願いしたいんですけど」
と言って、チュチュが、ブラウスに、緑のジャンパースカートを合わせていく。
瞳が萌葱色だからか、緑の生地を合わせていることが多い。
エマは、いろいろな生地を見せてもらった結果、ブラウスに、レースアップのコルセットが付いたワインレッドのスカートを合わせることにした。首元には、赤い宝石のついた金色のリボン。……ジークの瞳の色に合わせたリボンだ。
店を出る頃も興奮冷めやらず。
なんだかんだ、ショッピングは楽しい。
「時間かかったね〜」
「休憩して行こう」
と、二人で小さなアイスクリーム屋でアイスクリームを買い、ベンチに座ったところだった。
「きゃああああああ!ひったくりよ!」
の声と共に、目の前をナイフと鞄を持った男が駆け抜けた。
「……ッ!」
突発的に、アイスクリームを放り投げて立ち上がったのはチュチュだった。
「魔術師の前で犯罪起こそうなんてね……!」
エマもそれに続いて、近くにいた小さな子に「あげる!まだ食べてないから!」とアイスクリームを手渡すと、男を追いかけ、走り出す。
腕輪の着いた左手を前に出し、叫ぶ。
「突き刺せ!」
腕輪の前で、魔法陣が光り、弾けるように消える。
男の足元で、バチン、と大きな音と共に閃光が走る。
「痛ってぇぇぇ」
男が転がった拍子に、チュチュの声が響く。
「ジュエル」
チュチュのベルトの石の前に魔法陣が浮かび上がり、弾けるように消えた。
チュチュの手に、黒い双剣が握られる。
その瞬間、チュチュが、
「あ、ダメだ、アタシ!」
と叫んだ。
「アタシ、殺す以外の方法わかんない!」
「ええええええ」
実際、町の中はこんな小悪党すらほぼいない。2人とも、人間を相手にするのは初めてだ。
仕方なく、エマが体術で捕まえようと、倒れている男に飛びかかっていく。
「きゃあっ」
しかし、体勢を立て直した男に、逆に弾かれ、倒れてしまう。
「エマ!!」
男は、エマに向かって腕を振り上げた。
この国では、服は基本的に仕立て屋でオーダーして作ります。既製品を売っているお店はあまりありません。




