62 その手に触れるだけで(2)
大広間の中心で、止まる。
「そろそろ、時間だな」
腰に添えられた手が離れていく。
繋いでいた手も、かろうじて触れているだけになる。
その静かな声も、息遣いも、いちいち意識してしまう。
触れていた手を、離す。
絶対に見せられない顔をしているだろうから、慌てて、
「じゃあ私、ご飯係だから」
と、顔も見ずに走って大広間を出た。
バタン。
食堂の扉が大きな音を立てて閉まる。
「どうし……」
先に来ていたメンテがキッチンから顔をあげたけれど、言いかけて言葉をつぐんでしまった。
エマが顔を上げると、メンテが驚いた顔で赤面して、ゆっくりと目を逸らすところだった。
「あ……」
メンテが慌てるところなんて初めて見た。
つまり……すごく……私の顔が……。
メンテは手で顔を隠す。
「あー……、うん、ちょっと休んでれば?」
「察しなくていいから!」
「大丈夫、誰にも言わないから」
「何もないから!!」
「や……でも、その顔……」
目が合うと、メンテが苦笑した。
結局、エマが最初にしたのは、キッチンの床で水を飲むことだった。
キッチンの床なら、食堂に誰か入ってきても顔が合うことはない。
とりあえず、落ち着かなくては。
「ありがと」
立ち上がると、メンテが自家製カレーを煮込んでいるところだった。
「サラダ作るね」
と、エマは茹で卵を作り始める。
キッチンの向こう側、大きな食卓と、その向こうにクッションやソファが置いてあるコーナーが見える。
窓からの日差しはまだ明るくて、夕方とは思えないくらいだ。
ぼんやりと、メンテの料理を眺める。
一番手際がいいのはヴァルだけど、メンテの料理は細かいところにまで気を配られている。紅茶の入れ方、ケーキを作る時のクリームの混ぜ方、カレーのスパイスの分量……。
基本的に魔術師って料理も得意そうだよね。
メンテが野菜を炒める横で、レタスを千切る。
静かな部屋で、調理の音だけが響く。
この時間はとても落ち着く。
この双子は、どちらと一緒にいても、静かな気分になる。
「今度さ」
エマが口を開いた。
「パウンドケーキ作ろうよ。コーヒーに合うやつ」
「いいね。リナリも喜ぶよ」
やがて、リナリが食堂に入り、チュチュとシエロが共に食堂に入ってくると、食卓に今日の夕食が並んだ。
ヴァルが食堂に入って来たのは、夕食の鐘が鳴ってかなり後だった。
気にしないなんてもう無理だ。
斜め向かいに座るヴァルの存在が気になって仕方なかった。
気にしないようにして。
見ないようにして。
気にしていないように振る舞って。
目の前のカレーに集中。
食事中、あまりにも気になって、少しだけ様子を見ようとヴァルの方に視線を向けた。
すると、目が合ってしまって、顔に出てしまいそうになる。
結局、どちらからともなく視線は逸れてしまった。
料理のうまさでいえば、ヴァルとメンテがツートップ。チュチュも器用なので料理もどちらかといえば得意な方です。ちなみにシエロくんはまったく料理ができません。




