60 実家からの手紙(2)
ヴァルだったら、平気な顔ではいられない。
「わ、私……っ、もう脱ぐ……!」
ワタワタしたけれど、ドレスがそう簡単に脱げるわけもなく。
「待って、エマ!今脱いだらよけいおかしい……!!」
おろおろするエマを2人でなだめようとしたところで、扉の向こうから、「エマ?」とシエロの声がした。
「せ……、先生……!」
「そこに、リナリいるかな?今日の授業について話があるんだけど」
「はい!います!」
エマが返事をすると、リナリが扉の前へ行って、エマの方を振り返った。まるで、ゾンビ映画の扉を開けるシーンのような顔で。
エマが、無言で頷く。
扉が、リナリの手によって開けられた。
「えっと……」
顔だけ出そうとしたリナリだったけれど、エマとシエロの目が合ってしまう。
シエロが「おぉ……」と感嘆の声を出し、嬉しそうな顔をした。
リナリが、エマの冷や汗たらたらの笑顔をチラリと見てから、仕方なくシエロを招き入れた。
「似合ってるね。かわいい妖精さんだ」
シエロが微笑む。
その……自然と出てくる褒め言葉!!!その笑顔!!!
くすぐったすぎるのでやめてください!!!
「へへ……」
と、冷や汗たらたらの照れ笑いをしてみる。
思わず頭を触ろうとすると、
「ああっ、頭がくずれちゃう!」
と、チュチュに止められた。
それから更に、一層のキラキラしい笑顔になったシエロの煌めきにやられてしまう。
部屋の扉の側で、リナリとシエロが授業の話をした。
リナリが今日の課題を受け取って、シエロが部屋を出ていったところで、大きなため息をついた。
「メイクも簡単にしておこうか」
と、リナリが言い出す。
「えっ、あ、もういいの。脱ぐから」
「えっ!?」
大きな声を出したのは、チュチュだ。
「今日、ダンスの練習する予定って言ってたよね。着ていかないの!?」
顔が、カーーーッと熱くなる。
「……うん。やめとく」
目を逸らしたことで、なんとなく伝わったようだった。
「……本番喜んでくれたらいいよね〜」
チュチュはニヤニヤするのやめてほしい……。
エマの部屋を出たシエロが、食堂で発見したのは、クッションに埋もれて魔術書を読んでいるヴァルだった。
シエロはキッチンでコップを手に取った。
コップに注がれる水の水面が跳ねる。
「エマ、ドレス届いたんだね。綺麗だったよ」
そう言うと、ヴァルがゆっくりと起き上がって、ため息をついた。
「お前、また部屋入ったのか」
シエロが丁寧に水を飲む。
「たまたまね」
ヴァルが少し睨むようにシエロを見たので、笑顔で食堂から逃げるように出て行った。
「…………」
食堂には、シエロを見送る無言のヴァルだけが残った。
エマとヴァルが、これから二人でダンスの練習をする予定の、穏やかな午後のことだった。
ヴァルが読む魔術書は、大半がどこぞの魔術師が書いた論文やそれに類するものです。暇をつぶすのにいいようです。




