56 アイススケートってやつ
翌日は、シエロとエマがお弁当を取りに行く番だった。
空は今日もとてもよく晴れている。
エマが手を挙げる。
「はーい、先生」
「先生はやめろ」
黒板の前にいるヴァルが呆れた声を出す。
シエロがいない今、教壇に立っているのはいつも通りヴァルだった。
「そろそろ時間なので、抜けまーす」
「いってらっしゃーい」
チュチュと双子が口々に言う。
みんなに手を振ってから、ヴァルにも手を振ると、つまらなそうな顔をしたヴァルが手をヒラヒラさせた。
階段を駆け下り、2階の玄関ホールへ着くと、もうシエロが杖を持って待っていた。
エマに気付くと、にこにこと手を振ってくれる。
「先生、早いですね」
駆け寄ると、
「じゃあ行こうか」
と、そのまま外へ。
「馬車は……」と、エマが言いかけたとき、シエロがくるりとエマの方を向いた。
「今日は、足で行こうか」
「え?」
確かに、散歩がてら歩いて行ける程度の距離だ。
そう思ったのだけれど、
「ああ、歩いていくって意味じゃないよ」
と返ってきてしまった。
門の前で杖を構えると、シエロの通る声が響く。
「氷結の柱」
杖の上で魔法陣が煌めくと、弾けるように消える。
その瞬間、町へ続く道が水で覆われ、その表面がパリン、と凍った。
そして、シエロが取り出したのは、裏側にブレードが付いた靴。いわゆる、スケート靴だ。
「え……?」
冷や汗をかきながら、エマが言う。
「あの、私、スケートってあんまりやったことなくて。距離もあるし……」
すると、シエロが天使のような笑顔でにっこりと笑った。
「うん。エマはもっと体力つけた方がいいと思うんだよね。あと、バランス感覚」
「うっわわわわわ!いやああああああ」
エマがスケート靴をはいた途端、悲鳴ばかりになった。
町までは、緩やかとはいえ、坂らしい坂もないわけではない。
エマが想像以上のスピードに悲鳴をあげている隣では、シエロが優雅に、踊るようにスケートを滑っている。
「先生〜!これ、転んだら死ぬんじゃ……」
「僕がいるから大丈夫だよ」
その笑顔!
27歳なのにゲームの雰囲気を失わないその笑顔。
この笑顔には、私も弱い。
27歳でもショタって言っていいんだろうか。
きっとよくない。ガチなショタ好きにきっと怒られる。
でも目の前のシエロを見ていると、27歳のショタか〜〜〜〜〜〜と思えてしまう。
もう滑れない、と思ったところで、段々とスピードが落ちてきた。
ここ……まさか……。
「登り坂……」
呟くと、シエロがにっこりと笑う。
「登りの時は、こうかな」
と言いながら、優雅に歩くように登っていく。
「え……?」
とりあえず見様見真似でやってみるけれど、ズルズルと落ちていってしまう。
「刃を横にすれば滑らないよ」
とのことだけど、じゃあシエロはどうやって登ったんだろう。
結局、
「先生〜〜〜〜〜〜」
と泣きついて、両手を繋いで引っ張ってもらうことになった。
……うぅ。
それにしても……、シエロくんは後ろ向きで登り坂をスケートしてるんだけど、……どうやって登ってるんだろう。……ブレードが氷に刺さってる……?
へろへろのままなんとか町に辿り着き、やっと靴を履き替えさせてもらった。
「うぅ……」
その日は町に居る間、ずっとヨタヨタしていた。そして、町でのショッピングは、ヨタヨタしている間に終わってしまっていた。
気付けばシエロがにこやかに食堂でお弁当を受け取り、オススメのアイスクリームを買っていた。
そして、町外れにて。
「氷結の柱」
シエロの通る声が響く。
杖の上に魔法陣が現れ、弾ける。
学園への帰り道が、水で覆われ、表面がパリン、と凍る。
そしてシエロは、まるで天使のような笑顔でこう言った。
「じゃあ、帰ろうか」
「……ですよね」
シエロくんは何年経ってもショタと呼びたい雰囲気を纏っています。




