53 お出かけ日和(1)
それは朝のことだった。
昼食は町の食堂に頼んであるお弁当、夕食はみんなで分担して作っている。朝は、それぞれが食べたいものを食べるのがこの食堂のルールだ。
朝は必ず町で買ってきたパンやハム、お茶やジュースが準備してある。それに加えてサラダを作る者、卵を焼く者など色々だ。
その朝は、エマとチュチュがゆで卵とパンとウインナーで朝食をしている向かいで、ヴァルが果物カゴから取ったりんごを齧っていた。双子はどうやらすでに食事を済ませたらしく、2人でコーヒーを飲んでいる。
シエロはミルクティーを片手に菓子パンを食べ終わったところで、みんなに声をかけた。
「みんな注目ー!」
そこにいる全員がシエロの方を向いた。
ここで話される話は、大抵は仕事やおつかいといっためんどくさい話ばかり。あまり期待できるものではない。
「実は……、お弁当を発注している食堂の馬車が壊れてしまったらしくてね?」
ああ、また面倒ごとだ、とみんなが思う。
「馬車が直る5日ほど、みんなにお弁当を……取ってきて欲しいんだ。ヴァルは授業に出なくてもいいから、ヴァルを中心にローテーションしようか」
「俺かよ」
「じゃあ、1日目からヴァルとメンテ、ヴァルとリナリ、ヴァルとチュチュ、ヴァルとエマ」
「俺ばっかりなんだけど」
「5日目は……」
シエロがグッドアイディアだとばかりに人差し指をピンと立てる。
「ヴァルと……僕?」
「お前かよ……」
ヴァルがため息をひとつ。
「先生とヴァルがいなかったら授業はどうするの?」
真面目なメンテが優雅にコーヒーをすすりながら言う。
シエロがいない時は、いつでもヴァルが教師の代わりとしてみんなに勉強を教えている。
午前中の授業の時間に二人ともいなくなってしまうと、授業が成り立たなくなってしまうのだ。
「じゃあどっちか残ろうか」
「俺行くよ」
「僕とエマってのもありだな」
「……俺、行くけど?」
「う〜〜〜ん」
シエロが顎に手を当てて考えるポーズをする。
「じゃあ、5日目は僕とエマにしよう。勉強がてら」
顔を上げたシエロはずいぶんと晴れやかな顔をしていた。
「………………」
ヴァルは不満そうだったけれど。
その日の昼前、小さな馬車を使って、ヴァルとメンテが町へお使いに出た。
その日から毎日、お使いに出た者は必ず手土産を持って帰ってくれたので、夕方頃に食堂へ集まってお茶を飲むことになった。
メンテは箱に入ったチョコレートを。リナリはアップルパイを。チュチュはいろいろな味のビスケットを大量に買ってきた。
4日目はヴァルとエマの番だ。
昼前、エマが授業を抜けて門の前まで行くと、すでにヴァルが馬車を準備していた。
エマが階段から降りてくるのを見ると、ヴァルが御者台の上から手を伸ばした。
「…………」
手が、触れる。
……なんだろう。
今までだって何度も手を繋いできた。
それなのに、今日は緊張してしまってるみたいだ。
「へへへへ」
誤魔化すように笑うと、御者台の隣に座る。
エマは小さく深呼吸をした。
ほのぼのハッピーなデート!な感じで。




