46 ダンスレッスン(2)
それから更に3日。
なんとか、音楽に合わせられるようになってきた頃。
あと1週間といったところで、エマに大きな荷物が届けられた。大きな紙の包みだ。
2階のホールにどんと置かれていたけれど、持ち運べないので、ヴァルに手伝ってもらう。
こんなとき、縦長で階段しかない建物は不便に感じてしまう。
それも、各階天井が高いから、思った以上に階段を上ることになる。
「でかいな……」
「うん。家から届いたみたい」
部屋の扉の前で、そのままだとギリギリ扉を抜けられないことに気付く。
「抱えたままだと無理だな」
「縦にして入れようか。私、部屋の中から支えるね」
「おう」
なんとか、部屋に入れてもらう。それくらい大きな荷物だった。
「ありがとう!今度お礼するね」
「いいよ、これくらい」
バタン。
と扉が閉まると同時に、荷物を開けてみた。
中に入っていたのは、マリアからの手紙、ちょっとした焼き菓子、そして、ドレスに靴。
「うわぁ……」
それは、キラキラしたパーティードレスだった。
子供らしい、薄紫のドレス。宝石が散りばめられている。
「こんなの……初めて」
パーティードレスということは、今度パーティーに出席することが家にも伝わっているということだ。
マリアの手紙を読むと、みんな元気なこと、マリアがドレスを選んでくれたこと、今度のパーティーにはこれを着るといいということ、ルチアが寂しがってパイ菓子を焼いてくれたということが書いてあった。
お菓子の一部を持って、部屋を出る。
コンコン。
扉が開くと、ヴァルが顔を出した。
「どうした?こんなところまで」
ヴァルの部屋の前。
「これ、さっきのお礼に」
「ああ、入って」
「お邪魔しまーす」
ヴァルの部屋の中は、さっぱりとしていた。それでいて、所々アンティークの高価そうなものが置かれている。
置き時計や本、ライトなども。
「一緒に入ってたんだ。みんなにも後で分けるんだけど、先にお礼」
言いながら、包みを渡す。
ヴァルはその場で開いてラグに座ったので、それに倣ってラグの上に座った。
「中、ドレスだったよ。ヴァルはもう服決まった?」
「ああ、家から送ってきたよ」
家、かぁ。
ヴァルの家のことは今初めて聞いた。どんなおうちなんだろう。
学園の生徒は、あまり家のことは話さない。
そう決められているわけじゃないけど、暗黙の了解のようなものでみんな積極的に自分の家の説明をすることはなかった。
家族と不仲な人は見ないけれど。
パキン。
パイ菓子をかじるヴァルはどことなく嬉しそうで、やっぱりお菓子が好きなんだなと思う。
お菓子を手に取ってかじると、ふんわりとバターの香りがした。
「おいし」
エマがそう言うと、ヴァルがふっと笑った。
「あ、靴!」
突然エマが叫んで、頬ばっていたパイが口から飛びそうになる。
「おぃっ……きったねぇな……」
ヴァルが呆れた声を出した。
「もしかして……あのドレスを着て、あの靴を履いてダンスを踊るんだよね……?」
「だな」
素っ気ない声が返ってくる。ヴァルはしれっとした顔でパイをかじり続けている。
「うわぁ……」
いつもは柔らかい踵のない靴に、戦闘も可能なくらいの動きやすい服で練習している。ドレス用の靴で踊れるんだろうか。
「魔術はよくできてるし、ダンス早めにするか」
「うん……。お願い」
あはは、と困ったように笑うエマに、ヴァルはにっと偉そうに笑った。
ヴァルは甘いものが好きなわけではないです。好物は「美味しいもの」。
ちなみにシエロは甘党です。




