44 初仕事
春が近づいたある日、昼食のお弁当を食べているところだった。
その日のお弁当は、コロッケ弁当。エマはコロッケがお気に入りなので、お礼の手紙を書こうかと思っていたところだった。
「みんな、聞いてほしい」
シエロが言うと、みんながそちらへ注目した。
「魔術師の塔から、依頼が来てるんだ」
この学園は、魔術師の塔所属ということになっている。学習室とは違い、全寮制で高度な魔術を学ぶための場所。
それゆえ、魔術師の塔からの打診は無下にできないらしい。
シエロの青い瞳が真剣な眼差しを作る。
「2週間後、パーティーに出席することになった」
「パーティー?」
ヴァルが怪訝な顔をする。
そりゃそうだ。ここに居るのは10歳以下の子供たちしかいないのだから。
シエロが言うには、主催は塔の魔術師の一人らしい。
なんでも魔術師30周年パーティーを開くので、優秀な学園の生徒さんにも来て欲しいということだった。
舞踏会の形で開催されるパーティー。
「そこで、年長者の2人に、代表をお願いしたいと思うんだけど」
シエロが言うと、エマはキョロキョロとした。
年長者……一体誰だろう。
ヴァルは知らんぷりでコロッケを口に押し込んでいる。
「ヴァルとエマ」
呼ばれて、エマはちょっと飛び上がるような顔をした。ヴァルは面倒臭そうに苦い顔をしている。
「君達、ダンスの腕前はどうかな?」
どうかな、も何も、エマは転生前だって後だってダンスは習ったことがない。マリアは勉強や礼儀作法は得意だったけれど、運動やダンスは上手くなかった。
「できません」
「俺も自信ないけど」
「じゃあ、この2週間で完璧にしてくれる?」
「…………え?」
「社交界デビューした覚えがないんですけど」
「細かいことは気にしなくていいよ」
シエロが困ったように笑う。
ついでに「エマはパーティーまでに魔術を1つ使えるようにしておくこと」なんて付け足されたので、エマはフォークに刺した卵焼きを、危うく落とすところだった。
防犯上、一つでもできないと、外に出すことはできないということだ。
シエロは、ヴァルに目を向けると、
「僕が時間を作れない時は、ヴァル、よろしくね」
いつになく、静かな声でそう言った。
その日から、午前中は授業、午後は魔術、夕食後はダンスとハードなスケジュールが始まった。
午後は実習室直行だ。
「魔法陣、上手く書けてるね」
シエロがにっこりと言う。
毎日の練習の成果。エマはとうとう何も見ずに魔法陣が描けるようになっていた。
「ひとつ覚えてしまえば、あとは覚えるのも早いから」
「はい!じゃああとは実技ですか?」
「そうだね。いよいよ一人で実践してみようか」
壁際にシエロが下がり、エマが部屋の中心に立つ。
左手を体の前に。宝石を視界に入れ、集中。
「光」
腕輪の上に魔法陣が現れ、弾ける。
手の中に、小さな明かりがパチパチとはぜ、消えた。
「おー、いいね」
シエロが拍手をしてくれた。
「少し不安が出たみたいだけど、もう少し自信を持つとよくなると思うよ」
「……こんな基本魔術しかできないけど、いいんでしょうか」
「ああ、基本ができるのとできないのとでは大きな違いだよ。暗い道でこまらなくなるでしょう?」
それもそうか。
確かにこれだけでもできると、便利なことは増えそうだ。
「あとは、ヴァルに見てもらってもいいよ。出来るだけ僕が見るけど、時間がないからね」
「はい」
少し残念そうな顔でシエロが言う。
魔術師の師匠と弟子。それほどに強いつながりなのだ。
一瞬、ジークと大魔術師のことを思い出した。
「…………」
さあ、次はダンスレッスンだ。
ダンスはいわゆるワルツのことです。社交界ではワルツは必須!




