39 魔術の資質(1)
それから数日が経ち。
学園長が学園を訪ねてきたのを機に、エマは魔術の素養を見てもらうことになった。
大広間では、部屋の中心に立つエマの前に、シエロが立った。
そばに学園長が杖を持って立っている。
シエロが大きな宝玉を携えた背より大きな杖であるのとは逆に、学園長の杖は白くほっそりとした木でできている。
壁際がザワザワしているのは、子供達がみんな並んで座っているからだ。まるで、体育館で体育を見学する子供達みたいに。
「ふむ」
と、学園長はエマを検分するように眺める。
「良い依り代に育っているようじゃ」
腕輪を見る学園長は、うんうんと頷いた。
「魔力の運用はうまくできるようになったかな」
「はい。たぶん。ヴァルがずっと教えてくれていたので」
それを聞いた学園長は、満足そうだ。
「どうやら、ヴァルはいい子にしていたようじゃな」
学園長がフフン、とヴァルの方を見ると、ヴァルは不満そうに眉を寄せた。
「うむ、頑張っているな」
と、髭のおじいさんらしく、手で髭を撫でる。
ファンタジーの魔法使いっぽさがすごい、となんだか感心してしまう。
「さて、魔術も見てみなくてはな。お前さんは何の魔術の資質があるかな。といっても……ひとつずつ試してみるしかないんだがな」
魔術の得意不得意は、生まれつき決まってしまう。生まれた時に、精霊が赤ん坊に祝福を授けるらしい。
異世界転移冒険ファンタジーなら、レベルやスキルがわかる便利アイテムみたいなものがありそうだけど、ここではそんな簡単なものはないようだ。
目の前にいるシエロが一歩前に出る。
窺うように、エマの瞳を見た。エマを見下ろす瞳は、空を模した宝石のようだ。
「改めて、僕が君の師匠を申し出るよ。どうかな」
エマの手をうやうやしく取る。
……ショタのシエロくんが大人だ……。
心臓が高鳴る。
「……よろしくお願いします」
そう呟くように言うと、双子とチュチュが笑顔になった。
それとは対照的に、ヴァルが、静かに俯く。
「…………」
「じゃあ、始めるよ」
シエロが杖を構え、学園長は杖を軽く振った。
「まず、よくある属性からやってみようか。火、風、水の3属性から」
「はい」
エマに注目が集まる。
「依り代に集中して。魔術を使うには自分の中で“精霊の言葉”を編む必要があるけれど、僕が精霊を呼び寄せる手伝いをするから、今はイメージするだけでいい」
シエロが静かに説明する。
「……はい」
「火をイメージして、“炎”と唱えて」
エマは、腕輪のついた腕を正面に突き出し、目を閉じた。
「炎」
腕輪の上で小さな魔法陣が弾けたかと思うと、手の前に少しだけ、ふんわりと煙のようなものが漂った。
「…………?」
今のが、魔術?
火のようなものが見られるかと思っていたけれど。不得意だとそれほどの力もないということか。
「火ではないようじゃな」
学園長はどこか楽しそうだ。
続けて風、水とやってみたけれど、どちらも違うみたいだった。
「ふぅむ。それでは、闇と光はどうかな」
「じゃあ、闇からやってみよう。闇は……洞窟の奥底のような暗闇のことだ。“闇”と唱えて」
きっと、ヴァルが使っていたみたいな魔術のことだ。
腕輪に集中する。
「闇」
腕輪の上に魔法陣が描かれ、弾ける。
手の前が少しチカッとしたような気がして、顔を上げた。
「一瞬だったね」
シエロがにこっと笑う。
「…………はい」
この綺麗な笑顔に慣れることなんてあるんだろうか。
闇の魔術は強力なデバフ系の魔術です。恐怖心に影響し、一生動けないようにすることもできます。




