28 ショッピングデイ(1)
翌朝は早かった。
ヴァルに教わりながら、馬の世話をした。
「今日もよろしくね」
ブラッシングをしながら、馬に挨拶をする。
そんなエマの後ろ姿を見て、ヴァルはふっと笑う。
旅は順調だった。
順番に馬の手綱を握り、草原で3人揃って食事をした。
ヴァルと二人でいる時はあまり話さないけれど、そんな静かな時間も悪くない。
紅葉した林を眺めながら風を受ける。
夜は、やっぱり泣きながら眠ることが多かったけれど、楽しい毎日だった。
4日目の朝。
目が覚めると、雨が窓を叩いていることに気づいた。
「ありゃあ、今日は森を抜ける日なのに」
窓の外を眺めながら、チュチュが不安そうな声を出す。
シュバルツは周りを深い森が取り囲んでいる。どうあっても、森を抜けるしかシュバルツにたどり着く方法はない。
「お〜ふる?」
「何だって?」
朝食中、パンを口に突っ込んだまま喋るチュチュに、ヴァルが聞き返す。
くるりんとした目をヴァルに向けたまま、チュチュはのんびりと口をモグモグさせてパンを食べ続けた。
ごくん。
そんなやりとりを見ながら、エマはマグカップの中のコーンスープをすする。
「今日は雨みたい。どうする?」
口を空っぽにしたチュチュが、また、聞き直した。
ふぅ、とちょっとヴァルが考える仕草をする。
「この3人だと、暗い森を抜けるのは危険だからな。馬も休ませたい。今日はこの町でもう1泊しよう」
「りょ〜かい」「了解」
「この3人だと危険」という言葉を、エマは、まだ3人が子供だからという意味に受け取った。けれど、どうやら違うらしい。
あとでこっそりチュチュに聞いたところによると、暗い森を抜ける時には、炎や光の魔術の使い手が不可欠なのだという。エマはまだ魔術が使えないし、チュチュとヴァルもどうやらそちらの魔術は不得手らしい。
「そうなんだ」
ジークなら、炎の魔術が得意だったのに。
ヴァルのことを、少しだけジークに似ていると思った。けど、どうやらヴァルは炎の魔術は使わないらしい。
……やっぱり、全然別人だ。
その日は1日、森を抜けるための装備を揃える日になった。
チュチュは一人、食料の調達に行くことにした。エマとヴァルは暗い場所を通るための装備を揃える役目だ。
「ランタンの燃料、多めに買っていくか。もしかしたらキャンプになるかもしれないから」
馬車の中、木箱を眺めながらヴァルが言う。
雨がぱたぱたと馬車の幌に当たる音がする。
一通り見終わると、二人、マントのフードを頭からかぶった。ヴァルのマントは学園のマークが入った魔術師特有のもの。エマのマントは魔術師用のものではなく、雨よけ用のマントだ。
ヴァルが馬車から降りると、パシャン、と水たまりで水が跳ねた。
「ん」
ヴァルが、当たり前のようにエマの方へ手を出す。
ん?
「…………」
自分の手を、ヴァルの手の上へ乗せた。手を貸してもらい馬車の外へ。
やはり、パシャン、と水たまりの水が跳ねる。
ふいっと手が離れていく。
……ちょっと照れるじゃん。
ヴァル。10歳。今のところ背は平均よりも低めです。




