27 一人じゃない場所(2)
日常の中で、ふと、考えてしまう。
ジークはここにきたことがあるかな。
ジークが好きな食べ物はなんだろう。
頭をかすめる度に、思い知る。
ジークがこの世界に生きていたこと。……今はもういないこと。
一人、布団に入ると、そのことばかり考えてしまう。
ジークはどんな風に馬に乗るんだろう。
ジークはどんな風に魔術を使うんだろう。
こんなに近くに来たのに、どうやったって会えないんだ。
「ひっ……く…………、ふっ…………うっ……」
泣き声を抑えるのに、布団を頭からかぶった。
「うぅ…………」
一人、こそこそと泣いていると、ベッドに誰かが近付く気配があった。
誰か……来る……?
閉じた目をさらにギュッと瞑る。
「お?おぉ〜?」
ぷにぃ、とエマの頬に指が押しつけられた。
「ホームシックちゃんかなぁ〜?」
言いながら、チュチュはエマのベッドの上に乗りかかり、さらに頬をぷにぷにと触った。
「…………」
泣き顔を見られたくなくて、慌てて顔を手でこすりながら、起き上がる。
窓からの月明かりでなんとか顔を見ると、まだまだ幼いその顔が、少し困ったような、優しい顔をしているのが目に入った。
きっと、心配させた。
「……ありがとう。大丈夫だよ」
真っ赤な目で、なんとかそう言うと、エマは震えながら笑顔を作る。
チュチュがその小さな手で、よしよしと頭をなでてくれた。
「ふふっ」
「眠れないでしょ?」
チュチュが熱いお茶をもらってきてくれたので、二人、ベッドの上で壁に寄りかかって座った。
ゆっくりと飲むお茶はとても熱い。
ピンク色の質素なマグカップから湯気が立ち昇る。
肩からかけた毛布で温まる。チュチュも自分のベッドから毛布を持ってきて包まっていた。
「悲しいことがあったんだよね」
「…………」
会話をしたのはそこまでで、二人で暗い部屋の中、お茶を飲んだ。
失敗したなぁ。泣いてしまうなんて。
窓の外も何の音もなく、ただ、お茶を飲む音だけが小さく聞こえた。
気持ちが落ち着いて、静寂が過ぎた頃。
「カップ返してくるね」
エマはそう言って、チュチュからカップを受け取る。
「今日は、ありがとう。おやすみなさい」
笑顔でそう言うと、可愛らしい笑顔が返ってきた。
廊下の窓から、月が見えた。
この世界の月も、前世で見たものと同じように見えた。
どちらかといえば、こちらのほうが大きく温かいだろうか。
不思議な世界。
前世の時なら現実味がない世界だと思っただろう。
けど、この世界には、エマの家族になってくれた人達がいる。
初めて友達だと思えた人達がいる。
乙女ゲームの中にあった世界。
けど、ゲームなんかじゃない現実味がある。
私は確かに、ここで、生きている。
この国には温泉の文化があります。山の方では熱いお湯が湧いています。




