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転生少女は過去の英雄に恋をする  作者: 大天使ミコエル


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24/240

24 出立(2)

 10年間、この場所で生きてきた。


 家族がみんな揃った大きなドアの前。

 父、母、マリア、ルチア、ルーシン、ライリー、そして、父の補佐のロイ。

 大きなお屋敷の前に、みんながいてくれる。

 嬉しくなってにかっと笑った。

 みんな大事な家族だ。


 母やルチアがニコニコと見送ってくれるのに対して、マリアは目がすっかりウルウルしていた。

 母とルチアが「いつでも帰ってきなさいね!」と笑顔で言ってくれるのに対して、マリアの「辛いことがあったら……いつでも帰ってきてくださいね」は、鬼気迫るものがある。

「大丈夫だよ」

 もう、そうとしか言えない。もちろん、エマだって家から出るのは不安なんだけど。

「時々帰ってくるからね。夏休みだってあるんだし」

 にっこりと笑う。マリアがウルウルしてるから、そのウルウルが移りそうになるじゃない。


 他のみんなとも一人一人挨拶をしていく。

 ライリーとさよならのハグをする。なんだかんだ外にいるときは相手をしてもらっていた。

 ルーシンからは道中食べるためのクッキーをもらった。ルーシンは母の侍女なのだけれど、エマのおやつを作ってくれることも多かった。

 父とロイは今日は正装で、二人には手を握ってもらった。

「またね、お父様」

「ああ、楽しんでおいで」


 ヴァルに引き上げてもらって、幌馬車に乗り込む。

 中には大きな座布団と温かな毛布が置いてあり、思った以上に快適だ。

「またね、みんな!」

 馬車の後ろから手を振りながら、遠ざかっていく屋敷を見た。腕には、父からもらった腕輪が光る。

 煉瓦造りの茶色の大きなお屋敷。

 いつの間にか、それは自分の家だった。

 晴れた空の下の屋敷を、目に焼き付けるように眺めた。


 見えなくなるまで手を振った。

 振り向くと、チュチュの笑顔がそこにあった。人懐こい猫のような笑顔。

 ヴァルは御者台だ。

「御者さんは順番にやってるんだ。エマは馬はどう?」

 ふるふる、と首だけで返事をする。

「覚えてもらうからね。大丈夫、簡単簡単」

「……大丈夫かな」

 それ、本当に簡単?

 初めてのことが、たくさんありそうだ。

 周りには、木箱や樽が積んである。食料や薪、生活用品、色々。

「食料とか水とかたくさん準備してあるけど、基本的には町の宿屋に泊まるから」

「あ、そうなんだね」

 冒険ファンタジーものみたいに、ずっとキャンプになるのかと思っていた。

「街は安全だけど、外は狼とか盗賊とかいて危ないの。学園からもらった旅費もみんなで分けて持とうね」

 そう言われ、エマは財布をひとつ渡された。チュチュが近づいてきて、両手で優しくエマの手の中に財布を押し込む。目が合って、微笑まれる。

 財布の渡し方ひとつ取っても、あざといというか、なんというか……。照れちゃうじゃない。


 そこからは楽しかった。

 チュチュはおしゃべりで、これから行く学園のことや、好きなケーキのこと、途中の町で会った犬のことなど、いろんなことを話してくれた。

「あ、蝶々!」

 チュチュが立ち上がり、馬車の中でジャンプしようとする。

「危ないよ」

 それを落ち着かせようとエマがチュチュに手を差し出すと、チュチュが馬車の中で足を滑らせ二人して倒れこむ。

「何やってんだよ」

 二人の頭の上から、呆れた声が降ってくる。

 終始そんな感じだった。

 笑うほど楽しい時間は、久しぶりのような気がした。

乙女ゲームに転生したはずなのに、すっかり冒険ファンタジーの様相を呈しておりますが。

間違いなく、イチャイチャのためのほのぼのラブコメです!

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