23 出立(1)
それから、エマがシュバルツへ旅立つまで、2ヶ月だった。
正式な書簡が届き、慌ただしく荷物をまとめた。
大魔術師と会った時に着ていた服は、スカートがシワシワになったまま、衣装ダンスの奥に押し込んだ。
一人でも着られる服、動きやすい服などは持ち合わせていなかったので、よくマリアと街へ出て買い物をした。
マリアは、寮まで付いていくつもりだったらしいけれど、一人で寮生活をする決まりになっており、付いていくことは叶わずに、常に心配な顔をしていた。
「大丈夫だよ」
鏡越しの顔にも心配な気持ちが顔を出していたので、言ってみせたが、心境は変わらないようだった。
外見は10歳だけど中身は結構な大人だよ、と言うわけにもいかず、マリアは最後まで心配な顔をしていた。
「私だって、そんな小さな子供じゃないよ」
と言うと、そんなことわかってると言うように、マリアのほっぺたはぷっと膨れた。
心を落ち着かせるまでに2ヶ月かかった。
元気になるまで、ではない。何もないときに泣かなくなるまで、だ。
食事をしているときも、勉強しているときも、ただ街を歩いているときも。どんなときだっていつも、思い出したわけでもないのに涙がぱたぱたとこぼれた。
そんな姿を家族に見せるわけにもいかないので、エマはよく、図書室や家の裏手の木陰に身を潜めていた。
それでも、マリアやライリーがこっそりとエマの様子を窺っている気配を感じていた。暖かな家族の空気。
シュバルツまでは馬車で5日かかる。
移動が寒い時期にならないよう、ギリギリまで粘った2ヶ月だった。
こんなことならここに生まれなかったらよかったと、何度思ったことだろう。
ただ画面の中だけにいるはずだった人の生命を感じて、それでも会えるどころか、同じ世界に生きられるわけでもないなんて。
そこここに存在するゲームの中のものが、存在すればするほど、推しだけがいない世界を痛感する。
こんなの、推しがいなくなったことを余計に実感するだけ。
まるで、地獄みたいだ。
秋も深まった頃。その二人はやって来た。
勧誘の時に大魔術師と一緒にいた少年と小さな女の子。大魔術師本人は今日はいないらしい。
エマは、初めて着る旅行用のワンピースにタイツにブーツという、多少防御力の高そうな服に身を包んでいた。
天気は、気持ちのいい秋晴れで、旅立つにはとてもよさそうな日だ。
「改めまして。アタシ、チュチュ。今日からよろしくね」
と言った小さな女の子は、エマの手を包み込むように握った。ふわふわした笑顔。
めちゃカワだ。
「私はエマ。よろしくね」
目の前の子の美少女っぷりにクラクラする。
どこにこんなキュートな萌葱色の瞳で微笑まれて、落ちない人間がいようか。
「よろしく」
おずおずと少年の方にも、握手のための手を出す。
「……ああ。ヴァルだ」
軽く握手を交わす。
黒髪、赤い瞳、深い緑のマント。……ちょっとだけ似てると思ったけど、ジークと色合いが似てるんだ。
何がどうってわけじゃないけど、少し照れる。
少し照れてしまう顔をしている、というか。
見たくなる表情をしている、というか。
同じ年頃の子と交流するのは、転生してから初めてのことだった。
転生前から数えれば、母やマリアのほうがずっと年齢が近い。けれど、今までお世話を必要としていたことや、身体のサイズのこともあって、あまり同年代だと思えたことはない。
同じ目線の子達といるほうがよほど近さを感じる。
二人が乗って来たのは大きな幌馬車だった。
御者の姿もなく、本当に2人で迎えに来たみたいだった。
ライリーが、大きな木箱に入った荷物を馬車に乗せてくれた。木箱に入った食料も、いくつか。
その間、ずっと馬車を見上げていた。
……幌馬車なんて、初めて見た……。
いよいよ、この場所ともお別れだ。
男子1人に女子2人という構成ですが、三角関係になったりはしません!




