21 大魔術師(1)
こんな顔で国王様と会うわけにはいかないと、辺りをフラついた。
やっと馬車まで戻る頃には、もう太陽は傾いていた。
ライリーは遠くからじっと見ていてくれたのか、何も言わずにエマを馬車へ迎えた。
ガラガラと、馬車が子爵邸へ向かう。
窓の外は、赤色に染まっていった。
夕空の、薄い金の色。ジークの……瞳の色……。
玄関へ入ると、
「お帰りなさい」
と、母に抱きしめられた。
そんなに落ち込んでいるように、見えるのだろうか。
「あなたに、お客さんが来ているの」
お客さん?
エマにお客さん、なんて未だかつて来たことがない。なんせ、友達なんていないのだ。そもそも、街までは歩ける距離ではない。
「私……王様とは……」
王様がまだ居るのなら、できれば会いたくないと言おうとしたところだった。
「……大魔術師様が来ているの」
「…………え?」
大魔術師といえば、『メモアーレン』にも出てきた。ジークの師匠が、この国で唯一の大魔術師だった。
「………………」
仕方なく、客間へ入る。
赤いベルベットのソファに、3人の人間が座っていた。
左から、いかにも魔術師といった風情のローブを着た長い髭のおじいさん。確かに、ゲームで見た顔だ。持っている杖も、ゲームで見たことがある。
真ん中に、薄い茶色のくるくると巻いた髪をツインテールにした女の子。エマより幼く見える。6、7歳といったところだろうか。
そして、一番右に座っているのが。
さっきの……男の子。
黒髪。赤い瞳。金糸で文字のような縁取りのある深い緑色のマント……。
エマと同じ歳くらい。
じろじろと見ないように、すぐにエマは大魔術師の方へ向き直った。
エマの隣には父と母が座った。
「……ようこそ、大魔術師様。エマ・クレストと申します」
エマが言うと、髭の老人がふっと笑った。
「大魔術師マルーじゃ。よろしくのぅ」
知ってる。
ゲームの立ち絵と、まったく同じだもの。
本当に……ここは…………。
涙をこらえる。
「……お前さんに話があってな」
ゆるゆるとした声。
「エマ・クレスト……。お前さんを、うちの学園に勧誘したいと思っている」
「…………」
学園?
「それは、塔の魔術学習室のことですか」
「いやぁ、全寮制の魔術学園じゃよ。新しく作ったんだ」
「…………?」
わざわざ大魔術師が勧誘に来るって?
魔術なんて使ったこともない私のところに?
怪しいことこの上ない。
「なんで私なんですか?」
すると、大魔術師はにっこりと口だけで笑って言う。
「ワシは、お前さんのことを知っている」
え?
冷たくはないその黒い瞳の奥。けれどどこか、深淵を覗き込んでいるような気分にさせる。
会ったこともない大魔術師がエマのことを知っていると言う。
会ったことなんて、あった?
ううん。間違いなく、ない。
こんなゲームに出てくる人、見たら忘れるわけない。
……けど、知っているか知らないかで言えば、エマだって、この老人のことを知っている。
この国で唯一の大魔術師。魔術師の塔所属。
転生のことを、知っているんだろうか。
何よりも……、この人は、ジークの師匠……。
少しだけ逡巡したあと、エマは静かに言った。
「ひとつだけ、聞いてもいいですか」
さて、ラブコメ前哨戦突入です。
何のひねった設定もない異世界ほのぼのラブコメディの二人をどうぞよろしくお願いします!




