20 転生少女は過去の英雄に恋をする(3)
王妃様はまるで女神のような神々しさで、白金色の長い髪をしている、はずだ。
けれど、大きく煌びやかな馬車の窓から手を振っている女性は、白金色なんかじゃなかった。
あの人は、違う。
そう、思った。
そして、その顔を見た瞬間、
あれは、私だ。
そう、思った。
そう思っても仕方なかった。
だって、いつだって、あの顔は私だったから。画面の中では。
違う。私じゃない。
あれは、『メモアーレン』のヒロイン、アステールだ。
でもどうして?
すっかり大人だった。
ゲームでは16歳の少女だったはずなのに。
どうして?
「ランドルフ王様ーーーーー!!」「アステール王妃様ーーーーー!!」
周りで聞こえる名前は、確かに知っているものだ。
未来に転生してしまったの?
あれじゃどう見たって、ゲームから5年以上は経ってる。もしかしたら、10年かも……。
そう思ったところで、あることに気がついた。
エマは今、10歳だった。
そうだ。エンディング直後に、転生したんだ。
「………………」
じゃあ……、ジークは?
ジークはどこにいるの?
ジークは?
ゲームと同じじゃないかもしれない。
どこかで、あのくらいの歳で、元気で……。
けど。
思い出す。嫌でも思い出す。
王子様ルートのラストストーリー。
何度やっても、何度やっても、何度やっても、生き残ることがなかった私の推し……。
嘘………………。
だって、これは、異世界転生なんだ。
私がジークを助けられる、チャンスだったんだ。
だって、ジークはいつだって、私のことを助けてくれたから。
同じ世界に生まれた今度こそ……。
私のこのゲームの記憶で……。
………………。
紙吹雪が舞う。
歓声が耳をつんざく。
地上いっぱいに。
全てのことを隠して。
私の視界を埋めて。
もう、何も見えない。
もう、何も聞こえない。
じっとしていた。
次第に周りの人々がまばらになっていった。
エマは、前をじっと向いたままで、動けなくなっていた。
たん……っ。
肩に何かがぶつかる。
少しぐらついて、それでも無視していると。
「あぁ、ごめん」
声がした。
反射的にそちらの方を向く。
まるで、この世界に呼び戻されるみたいに。
「………………」
目が合った。
ジー……ク……。
時間が、止まったみたいだった。
黒髪の男の子がそこに居た。
赤い瞳が、同じ高さの目線で、じっとエマを見ていた。
似ている、と思った。
そんなわけない。
生きていたって、あんな子供じゃない。王子とヒロインがあの歳なんだから。
でも、目が離せない。
じっと見ていると、
「ヴァル!早く来て!」
その男の子は、声をかけられ、後ろを向いて行ってしまった。
一人、立ち尽くす。
「………………」
エマは、ただじっと、その少年の後ろ姿を眺めた。
このお話は、そんな境遇の少年少女のラブコメです。
ここで、転生編が終わり、次回からラブコメ前哨戦始まります。




