198 きっと初恋の人
ランドルフに会える。
そして、ヒロインのアステールにも。
それは嬉しいことだ。
目の前で、エンディングの先の、幸せな姿が見られる。
……まあ、私はエンディング付近はちゃんと読めてないんだけど。
けど。
ヴァルはどうだろう。
身を挺して守った、もう会っている気配のない親友。
……気まずいんじゃないかな。
なんていう心配はともかく。
ヒロイン。
ヒロインのアステールっていったら…………、もしかして。
もしかして、………………ヴァルの初恋の人では?
エマは、ベッドの上で腕組みをして目をつむった。
思い出そうとする。
王子ルートのジークを。
むむむむむ。
眉間にしわが寄る。
『メモアーレン』のヒロイン、アステール。
生まれはこの国の侯爵の娘だ。
ずっと侯爵領にいて、王都を見たこともなかった子。
少しクールで人付き合いの苦手な、16歳の女の子。
初めて王都に足を踏み入れた時、迷子になったところを、噴水の前で王太子に拾われる。
ジークはヒロインとはあまり交流はなかった、はず。
けど。
王太子といつも一緒にいるせいか、ヒロインともなんだか仲は良かったような気がする。
だって、二人でお喋りしてたし。
ヴァルが!
年下の女の子と!
仲良く喋るってだけでももやもやするのに!!
それに、『守る』って言ってたし。
なんか、切なそうな顔してたし。
考えれば考えるほど落ち込む。
「……やっぱ、好きだったんじゃん」
そんなところも推せると思っていた。
切ないところも、そんな憂いの表情もかっこいい。
……そりゃあ、だって……本人と会えて、仲良くなれるなんて、思ってもみなかったから。
自分がこんな気持ちになるなんて、考えたこともなかったから。
けど、実際に、好きになった相手の過去を、こんな風にまざまざと見せられて、そんな過去があったことを突きつけられるなんて。
エマは、ベッドの上でどんどん小さくなっていった。
相手は既婚者。
今となっては、かなりの年上。
あくまで過去の話。
気にすることない、はず。
でも、そんな風に、気持ちを切り替えられるはずない。
アステール。
可愛い女の子だった。
心の声を聞きながら、色々なことを一緒になって乗り越えた。
笑顔を見せた時は、一緒になって嬉しくなった。
間違いなく“ヒロイン”だった。
むぎゅっと、ジークのダイカットクッションを両手で掴む。
描かれたジークが、ぐにゅっと歪んだ。
「会わせたいわけないでしょー!」
いいながら、ベッドへ突っ伏する。
その日、エマは、悩んでも仕方ないことをぐるぐると思い描き、ぐすぐすと涙しながら眠りについた。
窓の外には月が眩しく輝く。
気にしすぎなのはわかっていても。過去を知っているだけに、唯一気になる女性だったりするわけで。